ライム病の仲間、バベシア症

バベシア症 Babesia_ウェルネスクリニック神楽坂

ダニ媒介疾患はライム病だけとは限らない

今日はあまり聞きなれないバベシア症について紹介します。ライム病の知名度は昨今上がってきましたが、ライム病と同時に感染していることが多いバベシア症はあまり知られていないかと思います。バベシア症はバベシアという原虫が原因になる感染症です。ライム病のようにダニなどの節足動物に刺され吸血されたとき感染します。

一匹のダニが2種類以上の菌を保有していることが多く、ライム病とバベシア症の複合感染は珍しくありません。複合感染の場合、それぞれが単独感染の場合よりも重症になりやすく、治療困難になります。診断は一層難しくなり、検査で偽陰性になりやすくなります。ライム病の治療効果が芳しくないケースでは、実はバベシア症を併発していたと判明することがしばしばあります。

バベシア症はダニ接触以外に輸血や母子感染も感染のきっかけになります。現在米国の輸血由来感染の最多の病原体はバベシアです。(肝炎ウイルスやHIVではない!) 献血の際にバベシア感染のスクリーニング検査を義務付けているのは米国全体の15州のみだからです。一方、日本の献血の現状はバベシア症に既往歴がありますかという問診票での質問を行います。検査はしません。

バベシア症とは?

バベシア症の症状は多様で、ライム病と共通する症状が多いです。しかし、特に顕著なのは酸欠です。バベシア原虫は赤血球内に感染するので、バベシア特有の血液循環や酸素供給関連の問題が生じます。

バベシア症の初期症状

急性期には高熱、悪寒、疲労、発汗、頭痛、筋肉痛、溶血性貧血(赤血球の破壊による貧血)などが起こります。

慢性バベシア症の症状

急性期を過ぎると、激しい症状が落ち着く人もいれば、無症状から重症の致死的な状況に陥る人もいて、年齢と元の免疫機能次第で個人差があります。すべての症状が起こるわけではなく、初診時の主な訴えが疲れとうつ症状というケースもあります。

  • 持続的な疲労: 休息しても回復しにくい、衰弱的な疲労。
  • 間欠熱: 発熱を繰り返す。寒気もあり。
  • 筋肉痛および関節痛: 慢性的な痛みが続く。
  • 神経精神症状: 気分のむら、うつ、不安、認知障害、睡眠障害。
  • 発汗: 夜間は特に大量の汗をかく
  • 回転性めまい
  • 頭痛: 慢性化する頭痛。
  • 胃腸障害: 吐き気、便秘、下痢、腹痛、過剰なガス
  • 息苦しい、酸欠の感覚、air hunger酸欠症状
  • 気管支系: 説明のつかない原因不明の咳
  • のぼせ、ホットフラッシュ
  • POTS: 体位性頻脈症候群
  • 凝固傾向 (血が必要以上に固まりやすくなることです。ライム病の感染者も凝固傾向があります。) 動脈硬化リスク、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、血栓症のリスクが上がります。

    その他、貧血、低血圧、血小板異常、肝機能異常などが見られることがあります。

蚊が媒介して赤血球に原虫が感染するマラリアという熱帯地方の病気があります。バベシア症は特に初期はマラリアに症状が似ており、実際一部のマラリア治療薬がバベシア症に効きます。しかしそもそもバベシアの認知度が低く、マラリアどころか、以下のような疾患に間違えられることがあります。

バベシアを見落とし、誤診されがちな疾患

  • 肺炎、間質性肺炎、喘息、気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、胃食道逆流症、小腸細菌異常増殖症(SIBO)、自律神経失調症など。

もし誤診によって大量ステロイドなどの免疫抑制の治療を受けると病状が悪化します。

バベシア症は赤血球の感染なので、バベシア原虫が増え長期化するほど、赤血球の炎症で赤血球が異形になったり破壊されます。赤血球の機能は低下しているので、全身に酸素を送り届けにくくなります。(ですから、数値的に貧血が軽微な割には酸欠や貧血の症状が重く生じます。) すると全身への栄養供給も悪くなり、全身が病原体感染に好都合な環境になります。バベシアがカンジダやライム病などと複合感染をしているとき、免疫低下が進み、相互作用で悪循環が起こり、複数の感染症が慢性化しやすくなります。全身が他の病原体の「たまり場」になりやすく、マイコプラズマ、バルトネラ、エールリキア、リケッチア、カンジダ菌、ピロリ菌、サイトメガロウイルス、ヘルペス、EBウイルスなどとの複合感染が起こります。複合感染は全く珍しくなく、むしろライム病のみまたはバベシアのみの単独感染よりも多いです。たとえば最近の統計データによるとニューヨーク州のライム病患者の66%にバベシアの感染が見つかっています。

診断の具体例

バベシア症の診断は、以下のいくつか方法がありますが、ライム病やカンジダ菌その他のカビの菌などとの複合感染の場合や感染のステージによっては偽陰性(感染しているのに感染していない結果となる)になることがあります。感染を100%陽性として見つけられる完璧な検査法はありません。臨床症状からバベシア感染を疑い、再検査や検査の組み合わせなど工夫をして診断をつけます。

  • PCR検査: バベシアのDNAを検査する方法。
  • 血清検査: バベシアに対するIgMとIgG抗体を検出する方法。
  • 血液塗沫: 顕微鏡で赤血球内のバベシア原虫を検出する方法。
         特に蛍光顕微鏡を用いたFISH法がよい。

バベシアは100種以上の亜種がありますが、ヒトに感染する主なバベシア原虫はBabesia duncani、Babesia microtiやBabesia divergenceなどが知られています。

 治療の具体例

バベシア症の治療には、以下を組み合わせます。

感染期間が長いとが長いと遺伝子変異による抗生物質に対する耐性を獲得したり、全身の細胞の酸欠、栄養不足、免疫低下が起こるので、慢性化のケースは合成抗菌剤だけではまず治りません。たとえばマラリア薬やイベルメクチンなど薬剤の適応外の服用法もあります。マラリア薬は近年耐性の報告が増えています。治療は根気も必要ですが、合成薬だけではなく組み合わせの多剤併用やバイオフィルム、免疫調整の要素も必ず担保します。

  • アルテスネート: 西洋ヨモギを加工安定化させた製剤。安全性が高く点滴投与で有効。
  • メチレンブルー: 最も有効な治療手段のひとつ。アジスロマイシンとの組み合わせが特によいとの報告があります。(血液脳関門通過可能、脳内の感染と神経系の開封に著効。ミトコンドリア機能改善と高い抗炎症作用を併せ持つ。)
  • オゾン自己血治療: 赤血球の酸素運搬能を高め、かつ抗病原体と抗炎症作用を持つ。
  • 天然由来: polygonum cuspidatum、Artemisinin, artemisia annua, cryptolepis, neem などのハーブ。polygonum cuspidatumのレスベラトロール成分は抗ウイルス、抗真菌、抗菌以外にも、抗炎症、老化細胞を消去する作用、抗がん、神経保護、血管保護、老化による変性疾患予防効果を有するアンチエイジングの視点からも注目のハーブ。NMNを提唱したことで 知られるアンチエイジング医学のDavid Sinclair 教授も老化細胞対策に最も効果的な製剤の一つとして言及しています。
  • ナノ粒子コロイダルシルバー: 抗菌、抗病原体作用
  • アトバコン: マラリアの薬
  • メトロニダゾールなどその他天然製剤の抗寄生虫薬
  • Tefenoquine: 国内で流通していないマラリアの薬
  • リアメット: マラリアの薬
  • アジスロマイシン、ドキシサイクリン、リファンピシンなどの抗菌剤
  • ヒドロキシクロロキン: 免疫調整。抗炎症。細胞内のpH調整で細胞内感染の病原体を殺傷
  • マクロファージ、ナチュラルキラー細胞などの免疫系統の強化
  • プロバイオティクス 
  • ナイスタチンなどの抗真菌剤

バベシアとライム病の治療の課題

バベシア症は人間の生命の要となる酸素を全身の細胞に運ばせなくする病気です。

赤血球がバベシア原虫のせいで傷モノになっているので、呼吸で酸素を取り入れても血液は酸素を運んでくれません。酸素不足のまま全身のそれぞれの細胞が生存しようとするとフリーラジカルが発生して、全身の組織も臓器にも炎症が起こります。バベシアの感染に気づかなければ感染の持続となるので、全身の炎症も持続します。赤血球も炎症を起こしているので、全身の血管に炎症の塊が循環して、血管の壁には炎症が飛び火し血流が悪くなります。末端の冷え性、血圧異常、慢性疲労、ブレインフォグなど起こります。血管内壁の炎症のせいで動脈硬化のリスクも高まります。

両疾患が合併する場合、症状が重なり合い、それぞれの診断が遅れ、症状は重症化しやすく、いざ標準治療を採り入れても治癒困難になりがちです。バベシアがライムを保護してしまい、バベシアもライム病も持続感染しやすくなります。再発は珍しくありません。

バベシア症とライム病の複合感染は、患者さんにも医者にとっても大きなチャレンジです。

早期発見、早期治療開始、再発に配慮し、全方位から攻める包括的な治療でバベシア症を克服しましょう。

参考文献

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