マイクロプラスチックと脳の不調

頭が重い、脳が疲れる、忘れっぽいは年齢のせい?

「会話が頭に入ってこない」「さっき読んだ内容が思い出せない」「ずっと眠い」「霧の中にいるよう」「知っているはずの言葉が出てこない」ブレインフォグに悩まされた経験はありませんか?

ブレインフォグ(Brain fog)は脳に霧がかかったような状態のことです。ブレインフォグは老化現象で説明がつくものではありません。環境に潜む物質や浮遊している菌を無意識に吸い込んでしまった結果、私たちの脳に入り込み、脳に炎症を引き起こした結果がブレインフォグになっていることがあります。

実は私たちは近年、海産物由来のプラスチックや、紙コップ、カトラリー、ペットボトル、路面の塵埃、包装梱包材など日常生活の中で意識せずにマイクロプラスチックを日々取り込んでいます。これがブレインフォグを起こしやすくします。マイクロプラスチックのほかにも、住環境のカビのように、いつの間にか吸ってしまった毒素もブレインフォグを起こします。ライム病という脳に感染しやすい感染症、水銀や鉛などの重金属中毒、カンジダやSIBO(小腸内異常細菌増殖)による腸内環境の乱れ、揮発性有機溶剤もブレインフォグを起こします。外傷性脳損傷も同様です。外傷性脳損傷は交通事故やスポーツ障害などで脳の損傷が起こった後に、脳のバリアの構造が壊れ、後にブレインフォグや物忘れといった後遺症を起こします。

今回は、まだ認知度の低いマイクロプラスチック(MP)と脳の関係に注目して、体内に侵入する経路から脳機能障害へのメカニズム、そして解毒法まで考えてみましょう。

マイクロプラスチックとは?

マイクロプラスチックの定義は、直径5ミリ以下の微小なプラスチック片のことです。私たちの生活環境の至るところにあります。まず海由来、魚介類のマイクロプラスチックです。また、都市部の道路上に堆積した砂や塵からも、ビスフェノールA、スチレン、ペットボトルやリサイクルや化繊の衣類、包装資材などが劣化して生じます。歯磨き粉や洗顔料、化粧品由来のマイクロプラスチックもあります。

さらに目に見えないレベルの1nm以下のナノサイズのナノプラスチックがありまして、ここまでくるとウイルス同等のサイズです。(この記事ではマイクロプラスチック以下のナノプラスチックも含めて、まとめてマイクロプラスチックと呼びます。)

近年の研究では、マイクロプラスチックは単体でも細胞に炎症を引き起こす可能性があることが示唆されていますが、マイクロプラスチックそのものも有害ですが、より深刻なのはマイクロプラスチックが他の有害化学物質を吸着して運び込むことです。殺虫剤、重金属、可塑剤(フタル酸エステルなど)、難燃剤、ダイオキシン類──これらが表面に付着したまま体内に入りると、細胞膜やミトコンドリア、DNAにまで到達し、ダメージを及ぼします。

吸い込んだマイクロプラスチックが脳に届く

マイクロプラスチック_ウェルネスクリニック神楽坂

マイクロプラスチックは経口摂取だけでなく、空気と共に吸い込み体に取り込むことがあります。室内に漂うほこり、洗濯時に衣類から放出される微細繊維、家具やカーペットから剥がれたプラスチック粒子などです。

「鼻」から体へ取り込む経路は要注意、これは嗅神経を通って大脳辺縁系へ直接届くという経路です。におい成分が脳に届くのと同様のルートです。

大脳辺縁系は、記憶・感情・自律神経を司る極めて重要な領域であり、ここに炎症が起こると、うつ症状や不安、意欲の低下、不眠、さらにはホルモンバランスの乱れ、動悸、消化不良など、多彩な症状が現れます。

脳のミトコンドリア

ミトコンドリアは、私たちのエネルギーをつくり出す発電所です。特に神経細胞は体の中で最も多くのミトコンドリアを抱えています。ミトコンドリアが壊れるということは、生存のためのエネルギーを十分に供給できず、細胞が希望不全になります。脳の被害が最も甚大なのです。脳のミトコンドリアのダメージはブレインフォグや認知障害を引き起こします。

マイクロプラスチックは、細胞の膜を破壊し、細胞内部のミトコンドリアに深刻な損傷を与えることが知られています。

神経細胞はエネルギー消費量が多く、そのエネルギーの大部分を担っているのがミトコンドリアです。

「頭が働かない」「集中力が続かない」「会話のペースについていけない」その陰には、脳のミトコンドリア、脳の中のエネルギー発電所が壊されているからかもしれません。

MCAS(マスト細胞活性化症候群)mast cell activating syndrome

大脳辺縁系には特にマスト細胞という免疫系の細胞が集中しています。マスト細胞は異常事態に自分の体の中身、ヒスタミンなどを飛び出させて警告をする細胞です。ヒスタミン以外にもプロスタグランジンやロイコトリエンなど色々な生理活性物質を解放します。ヒスタミンが突然爆発するように急上昇するので、過敏症やアレルギー、突然の頭痛、腹痛などが起こります。これはMCASという反応です。化学物質過敏症はMCASのメカニズムで説明されることがあります。つまり、MCASや説明がつかない化学物質過敏症、ニオイのもとがなくても特定の場所で化学物質過敏症の発作が起こる時、マイクロプラスチックを取り込んだ瞬間かもしれません。

腸の対策

ブレインフォグを語るからには、腸内環境と腸のバリア機能も対策の一環になります。

腸は“第二の脳”と呼ばれ、脳と腸は迷走神経などを通じて密接につながっています。この「腸脳相関」が正常であれば問題ありませんが、腸内環境が乱れると炎症物質(リポ多糖類やバイオトキシン)が血流を通じて脳に届きます。

特にSIBO(小腸内異常細菌増殖)やリーキーガット(腸のバリアが壊れて毒素が漏れ出す状態)があると、これが顕著です。さらに、腸からの毒素放出が反復、継続すれば脳のバリアである血液脳関門は破壊されるので、より多くの毒素が脳になだれ込みます。腸にとっての毒は、脳にも毒として作用します。

そもそもマイクロプラスチック自体が腸内環境に悪影響を与え、善玉菌の減少やバリア機能の破綻を加速させます。

例えば、遅延型食物アレルギー(IgGを介した免疫反応)は腸に慢性的に炎症を起こしします。遅延型アレルギーのことを気にせずに(知らずに)普段から食べている食品が自分の脳にダメージを与えていることがあります。このように腸の炎症が起こっている方にとっては、マイクロプラスチックの悪さが強まります。

ですから、腸内環境を整え、SIBOやSIFOを治し、遅延型食物アレルギーを治し、リーキーガットを修復し、腸の粘膜を炎症を鎮める、消化吸収の機能を向上させる、これらを一つずつ押さえていくことをブレインフォグ治療メニューに組み入れることはブレインフォグを克服するために不可欠です。

控えめに言って、腸の対策無しには脳は改善しません。

寝室を見直す

日常生活において、マイクロプラスチックやカビ、化学物質の暴露を減らすにはなんとなくのデトックスは大した効果はありません。医療の力を借りて特殊な解毒法がありますが、自分でできることもあります。まずは「寝室」の見直しです。脳の解毒は眠っている間に行われます。グリンファティックシステムという睡眠中の脳内クレンジング機能のことです。グリンファティックシステムのメカニズムは解明され、近年注目されています。

寝室を整える理由は2つ。寝ながら毒を取り込まないためと、昼間のうちに取り込んでしまった毒を解毒するためです。

まずは断捨離。寝室だけでもミニマリストになりましょう。埃やハウスダストに含まれるマイクロプラスチック粒子を減らすために、空気清浄機、除湿機の導入や定期的な換気、カーペット、布団やカーテンを見直します。生地にも着目、布団やシーツ、パジャマや下着は化繊?普段からフリースばかり着ている?カビや湿度対策は?ベッド下やクローゼットの収納も見直し、エアコンの手入れ、寝室の雨漏り、浸水、結露対策もします。さらに、Wi-Fiの機械を消す、電子機器を遠ざけたり電磁波対策もします。

香料や洗剤、柔軟剤の揮発性化学物質も、マイクロプラスチックと結びついてより強力な神経毒性を持つため、無香料製品への切り替えもよいでしょう。

マイクロプラスチックはブレインフォグの原因だけではありません。私が以前から警鐘を鳴らしてきた、メタボや肥満の加速因子にもなります。癌リスクが上がり、血圧異常や代謝の問題を起こすことも知られています。

マイクロプラスチックやナノプラスチックは空気中に浮遊し、私たちが呼吸するたびに、あるいは食品や飲料、日用品を通じて、日常的に体内に入り込んでいます。そして、脳の深部や腸内環境、細胞膜、さらにはミトコンドリアにまで損傷を与えています。ショートスリーパーの方も、現代社会で大容量のマイクロプラスチックに囲まれているのですから、もう少しグリンファティックシステムを活用するべきだと思います。

マイクロプラスチックが海洋汚染の環境問題ではなく、私たちの体、特に脳の機能に影響を及ぼしていることが伝わりましたでしょうか。

医療的な細胞レベルの解毒──PKプロトコール、細胞膜リン脂質置換療法

細胞膜_ウェルネスクリニック神楽坂

すでにマイクロプラスチックや他の環境毒素によるダメージが強く疑われる場合、血液脳関門が破綻しているリーキーブレインに進行している場合、あるいは慢性疲労やブレインフォグが何ヶ月も続いている場合には、生活改善だけでは回復が困難なことがあります。症状が重い場合には、医療機関での指導を受けるべきです。

そのようなときに検討されるのが、リン脂質点滴とグルタチオン点滴を組み合わせたPKプロトコールという治療法です。これは、細胞膜とミトコンドリア膜を構成するリン脂質を置き換えることで、神経細胞の構造と機能を賦活させ、細胞レベルでの解毒能力とミトコンドリアの機能を回復させる治療法です。

著名な機能性医学の医師であり、多くの健康本のベストセラー作家でもあるDr. Mark Hyman氏は一時、原因不明の慢性疲労とブレインフォグで長らく闘病生活を強いられました。最終的にカビ毒や環境毒が原因と判明しましたが、数年間、あらゆるサプリメントやビタミン点滴では効果が乏しかったことを経験しています。結局細胞膜の点滴治療やオゾン治療によって改善を実感したと語っています。客観データにおいては細胞膜の修復、細胞膜の組成、化学物質、カビ毒、重金属の解毒、肝機能に著しい改善が見られています。

PKプロトコール(細胞膜リン脂質置換療法)の適応例のリスト

  • アルツハイマー病
  • アンチエイジング、長寿
  • 自閉症と発達遅延
  • 心臓病、凝固亢進、高脂血症、血管炎
  • 悪性腫瘍
  • 慢性疲労症候群
  • てんかん
  • 重金属の解毒
  • 肝炎
  • ハンチントン病
  • 遺伝性および後天性の代謝疾患や代謝異常
  • ライム病とライム病の複合感染(バルトネラ、バベシアなど)
  • 多発性硬化症、神経毒性
  • パーキンソン病
  • 農薬、殺虫剤、揮発性有機化合物、化学物質の解毒
  • 脳血管障害(脳卒中後)
  • カビ毒の治療
  • MCAS(マスト細胞活性化症候群)

PKプロトコールの治療は個人差がありますが、早い方は初回から言葉がスムーズに出るようになった、頭がクリアになった、疲れが取れてスッキリした、といった体感とがあります。

最後に・・

マイクロプラスチックは目に見えませんし、臭いもありません。ところが、このような毒素は鼻から、口から、気管支から、体中の粘膜から、私たちの体内に大量に入り込みます。

ブレインフォグや疲れが持続していても、ただ不安になるのではなく、静養するだけではなく、正しく対処することが、ご自身と家族の健康を守る第一歩になります。

  • ブレインフォグの原因を見直す。
  • 睡眠の場、呼吸環境、腸を整える
  • 必要なら医療機関に相談する

が、お勧めです。

参考文献
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https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2590182625000293

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