脳の解毒「グリンファティックシステム」

お正月といえば、忙しい一年を乗り越えた後の休息の時間です。寝正月、いいですね。
夜間は寝福の神様が脳に宿る神聖な時間帯です。寝福の神の技のひとつに、グリンファティックシステムというのがあります。睡眠中の脳内のクレンジングのことです。私たちがグリンファティックシステムで得られることは、記憶力の改善など脳の健康です。
寝る究極の目的は認知機能の向上と脳のケアです。今日はその鍵となるグリンファティックシステムを紹介します。

寝て記憶力を上げる、グリンファティックシステムとは?

睡眠は多くの生理機能にとって不可欠です。その重要な機能のひとつが、脳内の毒素の除去と脳の修復です。
鍵となるのが、脳のグリンファティックシステムです。「グリンファティックシステム」は自動のリンパ系解毒システムです。
首から下の全身はリンパマッサージなどの方法でリンパの流れを助けて毒を流すことができます。脳は頭蓋骨という固い骨に包まれているので、身体のように外部からマッサージしてリンパマッサージができません。ですから脳には特別に脳の中の毒(神経毒)を排出する、脳のリンパ解毒システムなる作用が元々備わっているのです。
グリンファティックシステム (glymphatic system) のグリンファティックの言葉はグリアとリンパの2つの単語の組み合わせの造語です。「グリ」はグリア細胞のグリです。脳は大きく分けて神経細胞とグリア細胞の2構成でできており、このグリア細胞のことです。「リンファティック」はリンパの、という意味です。つまり、グリア細胞が行うリンパ系の動きのことです。特徴は夜間私たちが就寝中に起動します。専門用語なしに言い直すと、グリンファティックシステムとは、脳内の老廃物を寝ている間に排出するお掃除システムです。なお、寝てればいいっていうわけではなく、深い眠りのサイクルのノンレム睡眠中に、最も活発に作動します。脳脊髄液の流れがうねりとなり、老廃物を効率的に押し出します。

ノンレム睡眠とは何

ノンレム睡眠は深い睡眠です。睡眠中私たちは深い眠りのノンレム睡眠と浅めのレム睡眠の周期を繰り返します。レム睡眠はREM睡眠、rapid eye movementの略で、まぶたを閉じていても眼球がグルグル素早く動いている睡眠で、夢を見ています。入眠時のノンレム睡眠の大脳が休まる深い睡眠を経て、明け方覚醒の準備として浅めのレム睡眠になります。

グリンファティックシステムはどんな仕組みなのか?

睡眠中に活性化することが最大の特徴のシステムです。ぐっすり寝ている時(ノンレム睡眠)、神経細胞の周囲の組織 (グリア細胞)がスポンジのようにふくらみます。ふくらんだ勢いで脳内の隙間に脳脊髄液(CSF)が流れ込み、不要な老廃物を洗い流します。
グリア細胞の主成分はアストロサイトという名の星のような形状の細胞です。アストロサイト*がクリンファティックシステムを管理し、流れを調整します。

アストロサイトの図

*アストロサイトは神経系にのみ存在する星形の細胞で、突起を出して神経細胞(ニューロン)を保護したり栄養を与えて脳の空間を満たしています。かつては脳では神経細胞が主役でしたが、近年は周囲の神経細胞以外の部分(グリア細胞)が重要な機能を持つと気づかれました。アストロサイトは神経細胞の修復、保護、発達、神経細胞への栄養補給に不可欠です。血液脳関門の保護と修復もアストロサイトの仕事です。神経と再生医療の分野でも研究対象として花形です。

なぜグリンファティックスシテムが重要で注目されるのか?

脳内の有害物質や毒素の排出:をするからです。脳の有害物質や毒素を排出しなければ認知症などの様々な神経変性疾患を発症しやすくなるためです。急速に進む高齢化社会において認知症や脳の老化対策は喫緊の課題なのです。
アルツハイマー病との関連のある異所性アミロイドβタンパクはグリンファティックシステムを通じて脳の外へと排出されます。
別の研究では、睡眠不足時にアミロイドβ、タウ蛋白、アルファシヌクレイン、レビー小体などの異常タンパク質が蓄積すると指摘しています。アルツハイマー病の患者さんはグリンファティックシステムの機能が弱いという指摘もあります。MRIやSPECTなどによる脳の画像診断の分析をした研究結果です。

グリンファティックシステムの弱み

グリア細胞のスポンジ並みの膨張とノンレム睡眠が組み合わさるとグリンファティックシステムが作動します。ところが、もし、脳に炎症があると、グリンファティックシステムは崩壊します。誰もが平等に有するグリンファティックシステムにも関わらず、「炎症」に邪魔されてしまうのです。
つまり、グリンファティックシステムを活用するには、ノンレム睡眠と炎症フリー、という2条件が必要です。ノンレム睡眠を確保、同時に脳の炎症を起こす因子をなんとか除去したり抑える対策をとる、ことが合理的な脳のアンチエイジング法だと言えるでしょう。

ではノンレム睡眠のために何をすればよいの?

ノンレム睡眠のためにできることを10項目リストアップしました。食べ物とかサプリメントなど、何を摂ったらいいのか、先生は何を食べているのかなどとしばしば質問されますが、空気の質問はされません。室内の空気にも気を配りましょう。

  1. まず睡眠時間を確保しようと意識を変えます。ショートスリーパーがもてはやされることがありますが、それは幻想です。
  2. ミニマリズムの自宅づくり: 断捨離をして空気の質を改善、カビや埃を最小限にしましょう。脳に炎症の粒子を入れないようにします。とにかく自宅も職場も大気汚染並みの空気質にしないのがよいです。
  3. 寝具のケア: かびてたりダニや化学物質まみれの寝具では熟睡できません。枕がかびていたらどうなりますか。寝返りを打つ度にカビ毒が舞い上がり睡眠中吸い続けます。炎症の元を脳に送りこんでいる典型例です。
  4. 睡眠中は部屋を暗くします。暗闇で寝るとメラトニンの分泌を増やせます。メラトニンは深い睡眠をサポートする松果体から分泌されるホルモンです。グリンファティックシステムを支える直接のホルモンの代表はメラトニンです。
  5. 電磁波を減らす。例えばスマホはフライトモードにしたり寝室のWi-Fiルーターは電源を落とすなど工夫をしましょう。
  6. 飲食の留意点: 空気の次に大事な外部からの異物です。遅延性の食物アレルギーは除去します。ジャンキーな炎症性の食事をしない、寝る直前に食事は摂らない、寝酒はしないなど心がけます。
  7. 消化しやすい食事の摂取: 消化できない食材はゆくゆくは腸管漏えい症候群のきっかけとなってしまい、腸からの毒素が脳に届いてしまうでしょう。
  8. 腸の健康づくり: 例えばプロバイオティクスや酪酸などを利用して腸内環境を整えます。
  9. 昼間に太陽光を浴びること。これはメラトニンを昼間から増やすための作戦です。
  10. 副腎機能を整えること。DHEAやコルチゾールという副腎というホルモンを分泌する臓器があります。副腎の機能が弱いと睡眠の質が落ちます。グリンファティックシステムの改善のためには副腎疲労や副腎機能不全は調整する必要があります。

「寝福の神」が運ぶ新しい一年の始まり

お正月にグリンファティックシステムを開花して、脳も体もクレンジング、新しい一年をスタートしましょう。ひとつ注意したいこととしては、睡眠は貯金のように貯められません。正月に毎日9時間寝たからといって翌週は5時間睡眠、というのは意味が無いのです。正月明けも日々睡眠確保をしましょう。これこそ、忙しい現代を生きる私たちが見直すべきライフスタイルです。snsの時間でもよし、なにかを削って睡眠にまわしましょう。
グリンファティックシステムが正常稼働すれば、明日の朝は今日よりも脳の毒が減ります。明後日の朝は明日よりもさらに毒が減っています。睡眠という日々の鍛錬は近い将来の認知症の予防と脳のアンチエイジングとして実ることでしょう。
そもそも寝れないのよ!眠れないから困っているんだ、とおっしゃる方が一定数いらっしゃるかもしれません。不眠は老化現象だとあきらめていませんか。睡眠薬や寝酒に頼っていませんか。脳に潜む、「炎症」が関係していることがあります。脳の炎症、全身の慢性炎症は人によって原因、程度、期間や内容もまちまちです。ウェルネスクリニック神楽坂では、不眠の悩みはお一人おひとりの状況に合わせた個別対応によって根本から治します。グリンファティックシステムを最大限に活用するスタート地点に並ぶまでのお手伝いをします。

この記事では専門用語「グリア細胞」とか「アストロサイト」など飛び交いましたので以下にまとめます。  

注目のグリア細胞
グリア細胞は、脳と神経系においてニューロン(神経細胞)を支持する重要な細胞群です。脳は神経細胞とグリア細胞の2つに分けられます。グリア細胞は、ニューロンの機能を助け、保護し、環境を維持するためにさまざまな役割を果たします。以下に主要なグリア細胞のタイプ3種とそれぞれの機能のまとめです。

1. アストロサイト:ニューロンに栄養を供給し、血液脳関門(血液から脳に有害物質が入るのを防ぐバリア)の維持を助けます。神経細胞の形成と調整をします。
2. オリゴデンドロサイト:中枢神経系(脳と脊髄)でミエリン鞘(ニューロンの軸索を覆う絶縁膜)を形成し、神経信号の伝達速度を速めます。
3.ミクログリア:脳の免疫細胞のことです。脳のマクロファージとして働きます。病原体や不要な物質を攻撃し、丸ごと食べて、残骸を除去するところまでワンオペです。  

参考文献
Mark A. Anderson, Joshua E. Burda, Yilong Ren, Yan Ao, Timothy M. O’Shea, Riki Kawaguchi, Giovanni Coppola, Baljit S. Khakh, Timothy J. Deming & Michael V. Sofroniew.
Astrocyte scar formation aids central nervous system axon regeneration.Nature. 532(7598):195-200 (2016)
Yu Cai, Yangqiqi Zhang, Shuo Leng, Yuanyuan Ma, Quan Jiang, Qiuting Wen, Shenghong Ju, Jiani Hu,
The relationship between inflammation, impaired glymphatic system, and neurodegenerative disorders: A vicious cycle,
Neurobiology of Disease, Volume 192, 2024,
近年、グリンファティックシステム(GS)の研究が急速に進展している中、時流に乗った注目の論文。脳の老化、軽度認知障害、アルツハイマーやパーキンソン病などの神経変性疾患、そして脳内の炎症との相関性に注目した包括的な文献レビュー。

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