鉛中毒の話

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今回は重金属の鉛がテーマです。鉛はブラックなイメージに違わず、最強クラスの毒です。老若男女の脳や骨をはじめ、全身の健康を揺るがします。環境や土壌由来の鉛暴露によって、体内に鉛が蓄積し鉛中毒となり健康被害が起こります。しかし、つい数十年前までは美容や健康法としてわざわざ身体に鉛を塗りたくったり飲んだりした鉛が重宝されていたことがありました。幸い、近年は法規制や科学の知識のおかげでこのような間違いはなくなっていますが、いまだ現代社会が鉛フリーの環境というわけではありません。微量ずつの鉛暴露が日常的に起こっています。慢性の少量ずつの鉛暴露はゆっくり進行します。静かに鉛中毒が進み、脳神経、心臓、腎臓、骨、血液、血管など様々な部位に影響を与えます。鉛中毒の症状、鉛の発生源、歴史上の鉛の扱われ方、鉛中毒の判定法を順に見ながら、デトックスを視野に入れた鉛対策を考えてみましょう。

鉛中毒の症状

鉛中毒の症状は非常に多岐にわたっており、以下のような影響が見られます。

  1. 神経系への影響
    鉛は神経伝達物質の機能を妨げ、脳の損傷を起こし、中枢神経系に深刻なダメージを与えます。子どもの場合、発達障害、学習力低下、キレやすい、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラムのリスクと関連することが指摘されています。成人の場合、鉛暴露はもの忘れ、頭痛、不眠、情緒不安、うつ症状になりやすくなります。鉛は血液脳関門という脳を守るためのバリアの構造を破壊しうる強さがあります。慢性の鉛暴露が続くとリーキーブレインになりやすくなります。鉛は脳内で慢性炎症を持続させて「神経毒」として脳に残ります。神経毒は昼間も夜間も脳内で炎症の元になるので睡眠の質が低下します。脳に霧がかかったようなブレインフォグという症状を自覚することもあります。
  2. 鉛蒼白
    鉛中毒の患者には、顔色が青白くなる鉛蒼白という症状が現れることがあります。鉛が血管に作用し、毛細血管が収縮するためです。
  3. 鉛縁
    歯肉に暗青緑色の線が現れる鉛縁という現象は、鉛中毒の特有症状の一つです。これは鉛が血中に入り、唾液腺や歯肉に沈着するからです。
  4. 貧血
    鉛はヘムの合成を阻害し、ポルフィリンの代謝を妨げます。これにより、貧血になったりアミノレブリン酸の尿中排出が増加することが特徴です。covid19の予防や後遺症の治療に5アミノレブリン酸という栄養剤が注目されたことがありました。5アミノレブリン酸はポリフィリンの代謝経路の上流に位置しています。ポルフィリン類を増やし感染阻害をするというメカニズムです。鉛中毒が元々ある方はコロナ後遺症が遷延しやすいという仮説が立てられます。
  5. 慢性疲労症候群、脱力 
    鉛が細胞内のミトコンドリア機能を障害し、エネルギー代謝を妨げるので、持続的な倦怠感や疲労感が見られます。特に長期間にわたる鉛の曝露が続くと、慢性疲労症候群発症のリスクが上がります。
  6. 心臓・血管系
    鉛は血管壁の動脈硬化を進行させて、心疾患や高血圧のリスクを高めます。

  7. 体内に取り込まれた鉛の約90%以上は骨に沈着し、骨密度を低下させ、骨粗鬆症のリスクを高めます。骨に沈着した鉛は、骨形成の機能が落ちたとき、骨から血中に再放出されることがあります。更年期の女性がキレやすくなるのは骨代謝が変化し、骨から鉛が放出されるせいだと言われています。更年期女性の情緒不安はホルモンが足りないのが直接の原因ではなくて、鉛が急激に血液中に増えるのが原因だということです。
  8. 免疫系の低下と感染症リスク
    鉛中毒は免疫システムの機能を低下させ、感染症に対する抵抗力が弱まることがあります。たとえば鉛による慢性炎症が体内で進行すると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症が長引く原因になることもあります。他にも慢性の炎症疾患を抱えている方の場合、鉛中毒の相乗効果で免疫異常が起こりやすくなります。
  9. 内分泌系への影響
    鉛はホルモンバランスに悪影響を与えることがあります。甲状腺機能低下症、精巣機能異常、卵巣機能不全、副腎機能不全(副腎疲労)、松果体などの内分泌障害が発生し、体重異常、慢性的な疲労、不眠、早期老化、不妊、精子の数減少などといった病態に関連します。
  10. 腎障害と高血圧
    鉛暴露があると腎臓の損傷が起こります。長期間の鉛暴露によって腎機能不全や高血圧リスクが上がります。
  11. 発がん性
    鉛はDNAに損傷を与える発がん性物質です。鉛は遺伝子修復に関わるメチレーションという作用障害も起こすので、一層発がんリスクが上がります。
  12. 消化器症状
    鉛中毒は消化器に影響を及ぼし、消化不良、便秘、腹痛、吐き気、食欲不振などの症状が見られます。特に、腸内フローラが乱れるdysbiosisという病態になることによって、さらに消化器症状が悪化する可能性があります。重症例では鉛疝痛という、刺しこむようなおなかの痛みが起こることがあります。

鉛の発生源

鉛はさまざまな場所に存在し、人類と鉛の歴史は古くヒポクラテスの時代に遡ります。幸い私たちは鉛が毒だと認定された時代にいます。過去と現代との時空を超えた鉛の発生源を見直してみましょう。

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  • ワイン、水道管、ガソリン
    脈絡のなさそうな3つの物、ワイン、水道管、そしてガソリンです。3つの共通点は、目的のためには有益なので鉛を添加したというところです。過去の鉛入りの古代ローマでは、鉛製の器具で煮詰めた甘味料「サパ」をワインに風味向上のために加えていました。ローマ人は鉛の水道管も取り入れていたため、慢性的な鉛中毒を引き起こしてローマ帝国の衰退を早めた可能性が指摘されています。水道管は古代ローマどころか、日本で古い家屋の水道管は鉛が使用されています。ガソリンは1980年代以降は有鉛ガソリンの規制がかかり使用禁止されています。規制つながりだと鉛入りのペンキがあります。鉛ペンキは70年代以降は製造されていませんが、古い家屋では塗料に含まれるので屋内で中毒になることがあります。ワインのせいで鉛暴露したのはローマ人だけではなく、現代でもワインから微量の鉛検出が報告されています。
  • 顔料や塗料
    ゴッホやゴヤが使用していた鉛を含む「鉛白」という顔料は、健康被害を引き起こす可能性が高い顔料でした。鉛白は美しい白を表現するために非常に好まれましたが、慢性的に吸入したり触って経皮吸収することで鉛暴露になったようです。
    画家の顔料による鉛暴露は今日でもみられます。
    メイク用品のアイシャドーや口紅、髪の毛の染料も鉛の暴露源になります。
    ヘアカラーからも鉛が検出されます。
    鉛入りの陶磁器から溶け出した鉛を食事中に摂ってしまうことがあります。
    古い家屋では、剥がれかけた塗装や鉛水道管に暴露することで鉛暴露をします。
    ガラスやステンドグラスにも鉛が含まれます。
    趣味の工芸、メイク、顔料、建築、解体現場、その粉塵など鉛は身近にあるのです。
  • 土壌汚染と食品
    鉛鉱山、ガソリン、粉塵、古い塗料の粉末、廃棄物、工場や研究所跡地、工業排煙、工業廃水や鉛を含む農薬など、環境中の鉛は分解されないので土壌に残ります。土壌汚染が原因で、食品や飲料を介して体内に鉛が取り込まれます。
  • 伝統的な薬剤
    鉛を含む薬の長期使用が中毒症状を引き起こすことがあります。鉛は土壌汚染からも起こるので、薬剤の生産国の土壌条件次第です。歴史上の人物では鉛中毒になったベートーベンが知られています。ベートーベンは当時の医療慣行や鉛を含む治療薬の長期使用のせいで鉛漬けでした。慢性の消化器系や体の痛みを和らげるために、鉛を含む薬を頻繁に使用したそうです。また、鉛を含むワインの甘味料や鉛入りの食器の使用もあったそうです。死後の頭髪分析で高濃度の鉛が検出され、鉛中毒が難聴に陥り体調不良で消耗したとされています。
  • 大気中の鉛
    以前はガソリン添加剤として使用されていた鉛が、長年にわたり大気中に放出され続け、その残留が今も土壌に存在しています。大気汚染の粉塵を吸い込むことでも鉛暴露が起こります。
  • 鉛電池、ハンダ、弾丸など
    鉛が主となる製品はまだあります。鉛入りの弾丸で鳥類や野生動物が鉛中毒になる例が以前より問題視されています。鉛弾丸で狩猟されたジビエ肉の鉛濃度は高く検出されます。ジビエ料理、ジビエの加工食品、ペットフードなど鉛残留が指摘されています。

鉛中毒の診断方法

鉛中毒の判定法はいくつかあります。慢性の長期暴露による鉛中毒ならば尿の負荷試験がより正確な結果を得られます。簡易検査であればオリゴスキャンがよいでしょう。

  1. 尿負荷試験
    DMSA(ジメルカプトコハク酸)を使って尿中の鉛濃度を測定します。DMSAは鉛と結合し、尿に排泄させるため、体内の蓄積レベルを評価するのに適しています。解毒能力が低下している人の場合や骨に沈着している鉛の蓄積量をより正確に把握するためにも尿負荷試験が適しています。
  2. オリゴスキャン
    非侵襲的に手のひらにオリゴスキャンという機器をあてて、体内の重金属それぞれの波長測定をします。この方法は迅速で利用されています。
  3. 髪の毛の分析
    解毒能が担保されているなら髪の毛に鉛が検出されます。
  4. 血液検査
    急性鉛中毒の場合は血中の鉛濃度測定が適切です。

鉛の解毒法

  1. EDTAによるキレーション療法
    EDTAという薬剤は重金属解毒用のキレート剤です。キレートとは金属を捕まえるという意味です。キレーションはその名詞形です。EDTAは鉛と結合し、体外へ排出させます。カルシウムEDTAを含む浸透圧を適切に調整した溶液を、20-40回点滴します。
  2. DMSA(経口によるキレーション)
    経口摂取のDMSAは、軽度から中等度の鉛中毒に有効です。DMSAが鉛を体外に排出することで、中毒症状を緩和します。経口薬のため消化管の健康が前提条件です。カンジダ感染がある場合、カンジダ治療を優先させます。SIBO(小腸細菌異常増殖症)の場合も腸内フローラのバランスを先に治します。
  3. グルタチオンとNACなどの補助療法
    グルタチオンやNAC(N-アセチルシステイン)は炎症を軽減し、体の解毒機能をサポートします。キレーション療法との併用で解毒効果を高めます。
  4. 腸管免疫の強化
    腸内環境の改善は、解毒の重要な要素です。腸内フローラを整えることで、体の解毒能力を高めることができます。プロバイオティクスや消化力を整え、腸内細菌のバランスをとります。腸内環境のバランスに影響を与える遅延型食事アレルギーは優先して治療する必要があります。また、腸内環境の乱れDysbiosisという病態があるならば、鉛中毒の治療前に治します。
  5. ミネラルバランスの調整
    必須ミネラルを十分に備え、バランスをとります。亜鉛、マグネシウム、ケイ素などは有害金属がたまりにくい体づくりに必要です。ブロッコリやネギなどの硫黄を含む野菜も解毒に良いとされます。ミネラルが豊富な食材を普段から取り入れ、同時に農薬由来の重金属の摂取量を減らすという観点から、オーガニックや無農薬栽培の農作物や土壌汚染のない産地の食材を取り入れると良いでしょう。

まとめ

鉛中毒は、古代から長い年月かけて人類に大きな影響を及ぼし、現在も環境や日常生活でのリスクが残っています。先人たちは鉛で苦労してきましたが、私たちは鉛に人生を奪われことのないようにしたいものです。鉛の毒性が周知されても、法規制がかかるまでには長い道のりが待っています。科学が有害性を実証できても、産業と政治の思惑が絡むと鉛は健康被害がないという結論を出されてしまうのです。たとえば有鉛ガソリンで街中大気汚染で人々が病気や早死に至っても、禁止令が交付されるまでに50年もかかりました。巨大産業の製薬も一例です。政治力とさまざまな思惑が融合して定期接種となったmRNAコロナワクチンにおいて、公的機関はコロナのワクチンの安全性を主張していますが、利益相反のない多くの科学論文はワクチンの危険性を指摘しています。実際ワクチンは規制どころか推進されているのが現状です。有鉛ガソリンの50年どころではないでしょう。

要するに、規制がなくても見えない力が働くこともあるし、規制されてなくても危険な物質は社会に存在するし、法規制されるまでの期間に自分や大切な家族の健康が侵されてしまうこともあるということです。

主流の医学における高血圧、不眠、腹痛のための治療は数値や症状を抑えることが目的です。過剰な鉛蓄積が原因で起こった病気ならば、鉛を減らすのが合理的です。体内に蓄積してしまった鉛は自然消滅しません。漢方やビタミンなどの代替医療は副作用はあまりありませんが、鉛を消し去るわけではありません。環境の鉛暴露を減らして、体内の鉛は安全に解毒しましょう。

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金属のための各種キレーション製剤と鉛、水銀、ヒ素、スズその他の金属の解毒効果を金属別にまとめてあります。

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https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30043-4/fulltext
古代の鉛が現代人の健康にいまだに影響を及ぼしていることを利益相反なく論じています。有害物質は自分だけでなく、子孫への負の遺産になります。

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