ダイオフ現象

ダイオフ炎症_ウェルネスクリニック神楽坂

今回はダイオフ現象がテーマです。ダイオフ (die-off)は、抗生物質などで抗菌治療を始めると病原菌が死骸や毒素を放出し、炎症反応が起こり、一時的に症状が悪化することを指します。ライム病は特に重いダイオフの症状を起します。ライム病の治療中は症状改善とダイオフ現象が表裏一体になります。ライム病の他にも様々な感染症でダイオフが起こります。例えばバルトネラ症は激しいダイオフで悪名高く、カンジダ菌やピロリ菌退治の際にもダイオフが起こります。ダイオフは感染症の治療につきものなので、どんなものなのか、どのように対処するのか見ていきましょう。

ダイオフの症状例

  • 倦怠感
  • 発熱
  • 頭痛
  • めまい
  • 腹痛、下痢、便秘
  • 吐き気、嘔吐
  • 膨満感、ガス
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 湿疹
  • ブレインフォグ
  • イラつき、情緒不安
  • 血圧異常

ダイオフの正式名称Jarisch-Herxheimer反応

ダイオフ反応は、医療用語ではJarisch-Herxheimer reactionといって、という二人の医師の名前がついています。海外では頭文字のJHRや、短縮してHerxheimer reactionということもあります。

ダイオフとは炎症反応

かつては、ダイオフ現象は治療効果が出ている証拠とされて、反応を和らげるような工夫はそれほど重視されていませんでした。けれども近年はダイオフ現象に対する考え方が変わってきており、なるべく激しい反応を避けるようになっています。病原菌が死滅する際に発生する炎症性物質が体に深刻なダメージを与えるので、結果的にライム病の治療効果に影響を及ぼしてしまうからです。そのため、治療中はダイオフを抑えながら前に進みます。

ダイオフのコントロールを慎重に行わないと過剰な炎症性物質(炎症性サイトカインが大量発生する状況。サイトカインストーム)が暴走してしまいます。炎症の環境下では病原菌が生存しやすくなり、治療の進行を遅らせたり、停止させることさえあります。つまり、慢性ライム病やカンジダの治療は、抗菌療法と継続的な抗炎症、炎症性物質の排出のバランスが鍵となります。

最近のダイオフ対策のトレンド

近年では、ダイオフをできるだけ軽めに調整することが共通の見解になっています。特に、炎症を引き起こさないようにするため、低用量の抗菌剤で治療を始め、徐々に増量する方法が一般的です。体が過剰な炎症を起こさないようにし、ライム病によって既にダメージを受けている臓器や組織に配慮し、治療による追加的な負担を軽減するためです。

また、バルトネラ菌との複合感染の場合、ダイオフがより重篤になることが多く、これに対処するためには、バルトネラの特徴をふまえて、一層の慎重なデトックスと抗炎症対策が必要です。カンジダ菌との複合感染は抗菌剤の種類が増えるので、菌毒素がその分増え、未然にダイオフに備える必要があります。

ダイオフを軽くするための主な対策

  1. 抗炎症対策
    ダイオフや炎症性反応を抑えるためには、抗炎症対策が重要です。以下は効果的な抗炎症療法です。

    · CBD(カンナビジオール)
CBDは大麻由来の成分で、精神活性作用はない一方、抗炎症作用や鎮痛効果があり、JHRの炎症症状を緩和するのに役立ちます。CBDは、免疫調整効果を持ち、副作用が少ないため、ライム病治療でも注目されています。

    · LDN(低用量ナルトレキソン)
ナルトレキソンは通常、高用量でアルコールや薬物依存症の治療に使われますが、低用量では免疫系を調整し、慢性的な炎症や痛みを軽減する効果があります。特に自己免疫疾患や慢性疾患で利用されており、ライム病によるJHRにも応用されています。

    · オゾン自己血療法
オゾンを血液に混ぜ、酸素濃度を高めることで、体内の炎症を抑え、免疫系をサポートする治療法です。血液が酸素で活性化されるため、病原菌に対する防御力が向上し、治療を進めやすくなります。

    · ビタミンD3
ビタミンD3は、免疫系を調整し、炎症を抑える効果があります。免疫機能の維持に不可欠な成分で、ビタミンDの不足が炎症反応を悪化させる可能性があるため、適切な補給が推奨されます。

    · グルタチオン
体内の主要な抗酸化物質であるグルタチオンは、細胞を酸化ストレスから守り、炎症を軽減します。特にデトックスと抗炎症の両面で重要な役割を果たします。

    · メラトニン
メラトニンは睡眠の質を改善するだけでなく、強力な抗炎症作用を持っています。夜間に体が修復するプロセスをサポートし、ダイオフに伴う炎症を抑えるのに役立ちます。

    · 胸腺ペプチド

  2. デトックスの強化
 Nアセチルシステイン、グルタチオン(リポゾーム型または点滴)、セレン、アルファリポ酸、ミルクシスル(ハーブ)などで肝臓の解毒機能をサポートします。

  3. 毒素の吸着
 活性炭、ゼオライト、シトラスペクチン、フルボ酸やフミン酸などを用いて消化管内の毒素を吸着します。体外へ排出前(解毒前)にいったん捕まえておくイメージです。

  4. 排泄の促進
 尿や便、汗、胆汁の排出を促進するため、遠赤外線サウナやエプソムソルト入浴をします。 体のアルカリ化のためにマグネシウムなどのアルカリ性ミネラルを摂取します。クエン酸マグネシウムやグリシン酸マグネシウムがよいです。リンゴ酢の水割りを飲んだり、レモン果肉を摂取します。さらに細胞レベルで排泄を促進するためには点滴の細胞膜置換の治療を行います。

  5. 食事と環境の浄化
 オーガニックで抗炎症的な食事を心がけ、かつ腸内細菌を補充します。また、家庭内の化学物質を減らします。また、空気にもこだわってください。ダイオフ期間にカビや粉じんを吸い込まないようにします。空気清浄機の設置
 空気清浄機を使って、ホコリやアレルゲン、化学物質を減らすのも手です。HEPAフィルター付きの機能が単純な機能のものがよいです。

  6. 十分な睡眠の確保
 体は睡眠中に自然に修復し、毒素を排出するため、良質な睡眠が不可欠です。

  7. カビと湿度管理
 カビはダイオフを悪化させる一因です。湿度は40~50%に保ち、除湿器を活用してカビの発生を防ぎましょう。

  8. 寝具の清潔さ
 枕やマットレスはホコリやダニが溜まりやすいので、抗アレルギー製品や防ダニカバーを使用することをおすすめします。また、定期的に洗濯・掃除をすることが大切です。

  9. 自然な素材を選ぶ
 カーペット、カーテンや家具なども化学物質が含まれていることがあるため、自然素材のものや無添加の製品がお勧めです。また、せっかくのこだわりアイテムにカビが発生しないように留意することも大事です。

  10. 化学物質の暴露をなるべく減らす
 寝室での洗剤や芳香剤など、化学物質を含むものは避け、ナチュラルな製品を使うようにしましょう。 快適な寝室環境を整えることが、良質な睡眠と治療の助けになります。

では次に、やるべきでないことをまとめます。

ダイオフ期間に避けることリスト

  1. 強力な抗菌剤をいきなり大量に使用する
 抗菌剤を急に高用量で始めると、JHRを引き起こす可能性が高く、体に過度の負担をかけてしまいます。治療は低用量から徐々に増やすのが理想的です。

  2. 十分なデトックスを行わない
 解毒が不十分なままだと、体内に蓄積された毒素が炎症を持続させ、回復を遅らせます。デトックスのサポートが不足しないようにしましょう。

  3. 体を冷やす
 冷えは免疫機能を低下させ、炎症を悪化させる可能性があります。体を適度に温め、血行を促進させることが大切です。そもそもライム病は虫刺されがきっかけの病気ですので、短パンやミニスカートなど露出度の高い服装は好ましくありません。

  4. ストレスを溜め込む
 慢性的なストレスは免疫力を弱め、炎症を引き起こす要因になります。瞑想やストレッチなど、リラックスする時間を確保しましょう。

  5. 過度な運動や激しい活動
 体力を超えるような激しい運動は、体の回復を遅らせ、症状を悪化させることがあります。特にJHRが起こっている間は、適度な休息を心がけましょう。

  6. 炎症を起こす食事
 添加物や加工食品は炎症を引き起こしやすい食品です。オーガニックで抗炎症効果のある食事を優先し、飲酒とジャンクフードは避けるようにしましょう。小麦などの粉物、レクチンの多い食材(米以外の雑穀、豆を含む)、乳製品、砂糖、人工甘味料、酸化した油(トランスファット)は炎症性です。

  7. 睡眠不足
 睡眠中は体が修復し同時に毒素を排出するため、十分な睡眠が非常に重要です。睡眠不足は回復を遅らせ、炎症を悪化させる要因になります。日光を浴びないと夜にメラトニンが足りなくなり、睡眠の質が悪化します。

  8. 環境毒素にさらされること
 化学物質、重金属、農薬、人工香料や塗料などの揮発性有機化合物(VOC)などは体に負担をかけ、炎症を悪化させる可能性があります。ダイオフ中は菌毒素を解毒する期間なので、外部から新たな毒素が入ってくると解毒作用の余力がありません。特に、元々化学物質過敏症を患っている方の感染症治療中は、有害物質への曝露を避けるようにしてください。

  9. 自己判断での治療中止
 症状の悪化や反応が起こって慌てて自己判断で治療を中断することは危険です。ダイオフ現象は薬のアレルギーではありません。医師と相談し適切な指示を仰ぎましょう。

最後に

ダイオフ現象は科学的に説明のつく想定内の反応ですが、当人にとってはとても辛いものです。しかし、治療過程の一過性の反応だと理解して、効果的なデトックス(解毒)を行い、菌由来の毒素を減らし、炎症を緩和し、ダイオフの反応を調整しながら改善を目指しましょう。

参考文献

Karim M, Sapadin AN. A case of Lyme disease complicated by the Jarisch-Herxheimer reaction and coinfection with Babesia. JAAD Case Rep. 2022 Dec 1;32:68-70.
Brissette CA, Gaultney RA. That’s my story, and I’m sticking to it–an update on B. burgdorferi adhesins. Front Cell Infect Microbiol. 2014 Apr 3;4:41.
Hyde JA. Borrelia burgdorferi Keeps Moving and Carries on: A Review of Borrelial Dissemination and Invasion. Front Immunol. 2017 Feb 21;8:114.
Cruickshank D, Hamilton DE, Iloba I, Jensen GS. Secreted Metabolites from Pseudomonas, Staphylococcus, and Borrelia Biofilm: Modulation of Immunogenicity by a Nutraceutical Enzyme and Botanical Blend. Microorganisms. 2024; 12(5):991. 

関連記事

  1. 脳神経_ウェルネスクリニック神楽坂

    神経ボレリア症:脳と神経を侵すライム病 

  2. エーリキア症_Ehrlichiosis

    ライム病の仲間、エーリキア症

  3. ライム病:知られざる感染症の脅威とその克服方法

  4. 真菌・かび感染・イーストコネクション

    住居のカビについて、患者さんのご家族からのよくある質問 Q&…

  5. バベシア症 Babesia_ウェルネスクリニック神楽坂

    ライム病の仲間、バベシア症

  6. 住居内、一面のカビが猛威を振るう記事

類似名称のクリニックにご注意ください。
PAGE TOP