14族の元素のはなし

元素の周期表

14族の元素のはなし

元素周期表で同じ縦列(族)に並ぶ元素は、似た性質を持っています。中でも「炭素族」とも呼ばれる14族の元素たちは、私たちの生活、テクノロジー、そして健康に深く関わっています。今回はこの14族に属する炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)を取り上げます。それぞれが個性を持ちながら、同じ族に属することで化学的に親和性があります。

まずは、この14族きっての悪名高いブラックな鉛を見てみましょう。鉛ほどの汚名はないが有害なスズにも目を向けてみましょう。14族それぞれの個性と横のつながりを見ながら、有害物質にどう対応するか、気づきが生まれれば幸いです。

鉛(Pb):テクノロジーには重要だが、身体には有害な金属

鉛は健康に悪影響を及ぼすことが知られており、過去には水道管や塗料、ガソリンの添加物として広く使用されていました。しかし、鉛中毒の危険性が認識されるようになると、多くの国でその使用が制限されるようになりました。鉛が人体に入ると、血液や臓器に蓄積し、神経や脳に影響を及ぼし、特に小児に対しては多動や発達障害を引き起こします。腎臓や心臓、循環器系の病気リスクも高めます。また、ヒトの体内の鉛のほとんどは骨に蓄積し、骨密度に影響を与えることがわかっています。鉛は私たちの健康にとって脅威です。一方、他の14族元素と共に使われることで便利な役割を果たすこともあります。
例えば、スズ(Sn)と共に鉛はハンダとして使用され、電気機器の基盤や接続に欠かせない存在です。同族の元素と共に組み合わせることで、私たちの生活に役立つ一面も持っています。鉛は有害とはいえ今後も生活圏から完全消滅することはありません。鉛の健康被害をできる限り最小限におさえましょう。

炭素(C):生命の基盤

ダイヤモンド_ウェルネスクリニック神楽坂
炭素だけから成る唯一の宝石、ダイヤモンド
グラファイト_ウェルネスクリニック神楽坂
炭素から成る結晶型鉱物、グラファイト
Graphene, a molecular network of hexagons connected together. Chemical network. Carbon, nanomaterials, nanotechnology. Vector 3d illustraion_ウェルネスクリニック神楽坂
炭素が密に結合してシート状になったグラフェン

14族の重量の軽い順でトップバッターの炭素は、私たちの生命の根源です。すべての有機物は炭素から構成されており、炭素がなければ私たちは存在しません。人間の体を構成するタンパク質、脂質、炭水化物の全てが炭素を基盤としています。炭素の特異な性質の一つは、様々な形態で存在することです。例えば、硬いダイヤモンドも、柔軟性と強度を兼ね備えたグラフェンも、真っ黒な木炭も、すべて炭素の異なる形態です。これらは同じ元素でありながら、原子の配置によって全く異なる性質を持っています。
このように、多様な化学構造を持つ炭素は、健康面でも不可欠です。炭素の存在がなければ、私たちの体を作り上げることも、エネルギーを生み出すこともできません。人間が死に、焼かれても炭素です。14族の元素が持つ多様性の中でも、炭素はその可能性を最大限に引き出し、生命の基本要素です。

ケイ素(Si):地球の潤沢な元素で、ヒトの健康に不可欠

水晶_ウェルネスクリニック神楽坂
水晶
半導体_ウェルネスクリニック神楽坂
半導体

炭素の次に位置するケイ素も、私たちの生活に深く関わっています。地殻に豊富に存在し、水晶やガラス、半導体の材料として利用されています。ケイ素は日常生活に必要不可欠なものであり、特に現代の電子機器において重要な役割を果たしています。例えば、コンピュータの半導体や太陽光パネルはケイ素なしでは成り立ちません。天然鉱物のほとんどがケイ素を含み、代表格は水晶です。宝石の代表ダイヤモンドと天然鉱物の代表ケイ素が並ぶのが14族の見どころひとつです。今日の生活で必要不可欠な半導体もケイ素が原料です。そして、ガラスの材料でもあります。快適な住居もスマホライフもケイ素の存在のおかげです。二酸化ケイ素に鉛を添加してクリスタルガラスが製造されます。同族で親和性が高く、よい製品が出来上がるのです。健康面においては、肌、爪、髪の毛、骨の健康に関わります。ケイ素はアルミニウムやカドミウムなどの解毒にも役立ちます。植物が含むケイ素は土壌汚染の重金属を植物が吸収しすぎないように働きます。頼もしい元素ですね。

ゲルマニウム(Ge):健康と解毒、そして電子デバイスの原料

ケイ素と次のゲルマニウムは半導体の原料です。電子デバイスや光ファイバー通信の分野で不可欠な存在です。その特性により、電気や熱の伝導性を調整するのに適しており、現代の技術社会において欠かせない要素となっています。導体とは熱を伝導する物質で、絶縁体というのはゴムやプラスチックなどの熱をほとんど通さない物質です。その中間のような作用をする物質が半導体で、14族に位置します。
ゲルマニウムは抗酸化作用があり、解毒の補助として使用されることがあります。
健康面では、ゲルマニウムには抗酸化作用があるとされ、免疫力の強化や解毒サポートとしても注目されています。ゲルマニウムは体内で酸化ストレスを軽減することから、アンチエイジングや健康促進のために使用されることがあります。

スズ(Sn):生活に便利な金属

スズはハンダとして鉛と組み合わせて使用され、電子機器の基盤接続などに欠かせない存在です。スズは酸化しやすいため、空気中に放置すると酸化膜が形成され、これが腐食を防ぐ役割を果たします。スズは船底の塗料やブリキなどにも使われており、私たちの日常生活に関わる金属です。ガラスコーティング、シリコン、プラスチックのpvc 製品の添加物、食品添加物、化粧品、木材防腐剤、農薬、殺鼠剤などにも使われています。このスズがヒトに過剰蓄積すると、健康被害をもたらします。たとえば、嗅覚異常、頭痛、慢性疲労、運動失調、筋力低下、目や気道、胃腸などの粘膜刺激や、皮膚接触した部分の過敏な刺激症状です。自分の生活圏とスズが無縁だと思っても、意外とスズを取りこんでしまうのです。以下にスズの腐食の例をまとめます。

酸化しやすいスズ:皮膜、海洋汚染、そして食物連鎖

スズは空気中で酸化しやすく、表面に薄い酸化皮膜を形成します。この酸化皮膜は腐食をある程度防ぐ効果があり、一般的な環境ではスズ製品が長持ちするのに役立っています。そのため、スズは缶詰やブリキ製品として幅広く利用されてきました。しかし、酸化が進行しすぎると、皮膜がボロボロ剥がれます。酸性の環境や強い塩分を含む海水に長時間さらされると、スズは腐食しやすくなります。
スズの被膜を作る性質のため船底の塗料に利用されますが、酸化した有機スズ化合物が海水に流出し、広範な海洋汚染を引き起こしました。有機スズは魚介類に蓄積され、食物連鎖を通じて人間に戻ってきます。海洋生態系にも甚大な悪影響をもたらすので現在では多くの国で有機スズ化合物の使用が規制されています。

スズペスト:寒冷地のスズに起こる「伝染病」

スズには「スズペスト(tin pest)」と呼ばれる現象があり、特に寒冷地で問題となります。スズは通常「白色スズ(β-スズ)」として安定していますが、マイナス13度以下の温度にさらされると「灰色スズ(α-スズ)」という別の構造に変化してしまいます。この変化は一度始まるとスズ全体に伝播し粉々に崩れてしまうため、「スズペスト」と呼ばれます。
歴史的には、この現象が原因で寒冷地に保存されていたスズ製の容器や道具が破壊され、深刻な問題を引き起こした例もあります。過去にはナポレオンのロシア遠征の際、軍隊のスズ製ボタンが寒さで「スズペスト」にかかり、兵士たちは厳冬期に服のボタンをとめられず、戦力に影響したことがありました。この現象は現代のスズ製品でも起こります。

出典 スズペストの病態(wwwperiodictableruの動画のサムネより)
出典 スズペストの病態(wwwperiodictableruの動画のサムネより)

14族元素を俯瞰する

炭素族である14族の元素をこうして見てみると、私たちの健康や暮らし、テクノロジーにおいて非常に重要な役割を担っています。14族の面白さのひとつは、同族でありながら、それぞれ異なる特徴と役割を持つ元素たちが相互に補完し合い、地球上のドラマを作り上げている点です。高校生の時、スイヘイリーベボクのフネ、ナナマガリ…、のような語呂合わせで元素の順番を覚えたものです。大人は族単位で元素を見てみましょう。物事を違った視点から見る醍醐味を味わうことができますよ。炭素とケイ素から視点を下へずらすとスズと鉛です。私たちはつい100年前までの時代と異なり、スズも鉛も有害だと証明されている幸運な時代にいます。しかもそのような有害物質を身体に蓄積したままにしない手段もわかっています。 DMSA製剤やEDTAを用いたキレーションや解毒法を駆使しつつ、日々の生活でもなるべく毒を取り込まない心がけがお勧めです。

参考文献
Ferrero ME. Rationale for the Successful Management of EDTA Chelation Therapy in Human Burden by Toxic Metals. Biomed Res Int. 2016;2016:8274504.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5118545

Adams JB, Baral M, Geis E, Mitchell J, Ingram J, Hensley A, Zappia I, Newmark S, Gehn E, Rubin RA, Mitchell K, Bradstreet J, El-Dahr J. Safety and efficacy of oral DMSA therapy for children with autism spectrum disorders: Part A–medical results. BMC Clin Pharmacol. 2009 Oct 23;9:16.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2774660

Ferrero ME. Rationale for the Successful Management of EDTA Chelation Therapy in Human Burden by Toxic Metals. Biomed Res Int. 2016;2016:8274504
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5118545
http://www.periodictable.ru/050Sn/Sn_en.html

元素周期表のスズのページから、スズペストの画像を使用
https://youtu.be/FUoVEmHuykM?si=ibc2hR8UBNxyp4Ni
スズペストの動画

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