リーキーブレイン

リーキーブレインとはleaky brainのカタカナ読みです。
直訳は「脳漏れ」、脳が無防備な病的な状態です。

脳には「血液脳関門(けつえきのうかんもん)」と呼ばれるバリアがあります。このバリアの構造は、細胞と細胞の隙間をつなぐように構成されています。脳に入って良い栄養素や物質にはバリアを緩めて、脳に取り入れ、それ以外の不要な物質はバリアをガッチリ固めています。通常は脳を守る関所の役割をしていて、バリアの部分がピタッと細胞同士をくっつけているので、タイトジャンクション(密着結合)ともいわれます。

もしもバリアが壊れていると、大きな異物体や有害な物質がザル状態で脳に入ってきます。すると脳に炎症が起きたり、神経が傷ついたり、脳の病気に発展します。この状態が「リーキーブレイン(脳漏れ)」です。リーキーブレインは脳の中に物質が漏れ漏れに入ってくる危ない状態です。

血液脳関門は英語ではBlood Brain Barrier です。頭文字をとってBBBと書くこともあります。血液脳関門が壊れてバリア機能を失った状態は正確には、leaky BBBです。リーキービービービーだと名称が長いので簡略化して通称リーキーブレインです。

リーキーブレインの症状は?

リーキーブレインになると、次のような症状が起こります。

  • 集中力が続かない
  • 学習力が低下する
  • 気分が落ち込む、不安になる、気分の乱れ
  • うつ症状
  • 記憶が曖昧になる、記憶力低下
  • 睡眠の質の低下
  • 考えがまとまらない
  • 頭がぼんやりする
  • ブレインフォグ (brain fog)
  • 慢性疲労(脳の症状だけでなく、全身も疲れやすくなります)
  • 電磁波に対して過敏になる
  • 化学物質に対して過敏になる
  • 頭痛

リーキーブレインが関与する病気や病態

  • コロナ後遺症
  • 不眠
  • 化学物質過敏症
  • 電磁波過敏症
  • 慢性疲労症候群
  • 軽度認知障害 MCI
  • アルツハイマー病
  • 自閉症、自閉症スペクトラム障害 ASD
  • パーキンソン病
  • 筋萎縮性側索硬化症 ALS
  • 脳腫瘍
  • ADHD
  • 脳梗塞や心筋梗塞の後遺症
  • 自己免疫疾患

どうしてリーキーブレインになるのか?

ではなぜリーキーブレインになってしまうのか整理してみましょう。炎症反応や直接的な物理的破壊がきっかけです。血液脳関門の構造が崩れます。

大きな事故が一撃でバリアを破壊することもあります。反復的な刺激や慢性的な因子によってバリアが徐々に弱くなることもあります。

外傷・脳損傷(主にスポーツ、事故、転倒)、②腸由来の毒素流入、③病原体、④有害物質です 。これらを順に見ていきます。

外傷・脳損傷・脳の血流障害
交通事故や転倒などの事故や、特定の職業とスポーツによる外傷
  • 建設作業員
    高所作業や重機を使う環境での頭部の衝突リスク。
  • 軍人警察官・警備員
    暴力的な場面での頭部打撲のリスク。
  • 鉱山作業員
    地下作業中の落石や頭部への衝撃の危険性。
  • コンタクトスポーツや格闘技
    アメリカンフットボール、ラグビー、サッカー、ホッケー、ボクシングや総合格闘技。頭部への直接的な打撃。
  • 乗馬や自転車競技モータースポーツ、レーサー
    転倒や落下による頭部の強打。
  • スケート、スキーやスノーボード
    高速での転倒による頭部衝突。
  • 車両の追突事故や電動キックボードの事故
    ヘルメット無しの転倒で最強の頭部打撃。
luup_ウェルネスクリニック神楽坂2.

では上記のような事故や衝突などの脳損傷がきっかけでリーキーブレインになるメカニズムをみてみましょう。

1.まず初期の一撃です。
  • 頭部への直接的な打撃:
    頭蓋骨の内部で脳が衝突し、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)が放出され、血液脳関門が破壊されます。
  • むちうち(頚椎捻挫)
    急な加速や減速によって頭が揺さぶられ、脳や首(頚椎)が損傷を受けます。(自動車事故やコンタクトスポーツの衝突など)この時微小血管や血液脳関門の構造破壊が生じます。
    首や脳が急激に前後に動くことで、微小血管や血液脳関門に損傷を引き起こします。頭を揺さぶられる衝撃で、リーキーブレインが起こり、将来の認知症発症のリスクが上がります。
2.次にミクロの世界、血液脳関門にダメージが広がります。

衝撃により血液脳関門の密着結合が破綻します。そこへ有害物質が脳内に流入します。
神経細胞の周囲のグリア細胞(アストロサイトとミクログリア)が異常事態に対して活性化して、慢性炎症になります。

  • 脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞
    脳の虚血、脳血流の再灌流(さいかんりゅう)障害* 
    脳の血流不足が起こると酸素不足で酸化ストレスになります。大量の炎症製物質が発生し炎症反応が起こり、細胞膜やミトコンドリアにダメージを与えます。神経細胞とその周囲のグリア細胞にも傷害を与えます。血液脳関門へも炎症が広がり、そしてリーキーブレインになります。

    *脳血流の再灌流(さいかんりゅう)障害:血流が一時的に抑制されたあと、再び血流が復活した際に組織や細胞に損傷が生じる現象のこと。特に神経細胞はこの障害に弱いため、脳卒中や心筋梗塞などで病態が悪化します。
②腸関連(リーキーガットや食事)

腸と脳は腸脳相関という関係でつながっています。腸は第2の脳です。「腸漏れ、リーキーガット」はリーキーブレインに発展するリスクが上がります。
特定の食材、食物由来の毒素、食品添加物、化学調味料(MSGs)、残留農薬、腸のフローラのアンバランス(dysbiosis)、小腸細菌異常増殖症(SIBO small intestine bowel overgrowth)などさまざまな理由で腸の問題が生じます。その情報が脳に届き、リーキーブレインを併発しやすくなります。
毒素が腸から漏れ続け、血流に乗り、脳に届きます。それが反復炎症刺激ならば、いずれリーキーブレインになる運命です。
ステロイドなどの免疫抑制剤、抗生物質の長期服用や胃酸を抑える薬の長期服用などもリーキーガットを起こしやすくなります。

③バイオトキシンや病原体

ここではリーキーブレインに寄与する主な4種の病原体、コロナ、カビ、ライム病、腸の腐敗菌を順に紹介します。

  • コロナ後遺症
    病原体の中にもリーキーブレインを起こすものがあります。Covid19のコロナ感染やコロナのワクチンも、リーキーブレインのきっかけになります。コロナ後遺症のブレインフォグのケースはリーキーブレインを伴っていることが多くの研究で指摘されています。コロナ後遺症のブレインフォグ症状はリーキーブレインです。コロナ後遺症の症状のうち、ブレインフォグの病態は血液脳関門の破綻と持続的な全身性炎症です。
  • マイコトキシン(カビの菌)
    カビ由来の毒素はリーキーブレインを起こします。カビは空気中のカビを吸い続けていると、鼻から脳に届くので直接的な脳へのダメージが起こり、リーキーブレインの発症が早まります。

    主なマイコトキシン(カビの菌の毒)
    • オクラトキシンA(アスペルギルス菌のマイコトキシン、肝腎脳を傷害)
    • トリコテセン(最強の毒性を持つマイコトキシンの一つ)
    • グリオトキシン(カンジダ菌のカビ毒、極めて毒性が強い)
    • スタキボトリス:スタキボトリスという黒かびによるカビの毒素(トリコテセンという名前のマイコトキシン)は神経毒性を持ち、血液脳関門を壊します。

      オクラトキシンやグリオトキシンなどが脳の血液脳関門の構造に直接ダメージを与えます。
  • ライム病(ボレリア菌の慢性感染)
    • 菌の表面タンパク質(OspAなど)
    • 菌のバイオフィルム
    • 菌や毒素が産生する炎症性サイトカイン

      ライム病というのは、神経細胞をターゲットにして感染する病気です。菌が神経細胞を好んで感染して炎症を起こします。ライム病といえば、認知機能。ライム病といえば、リーキーブレイン。ライム病は、ダニなどの虫に刺されて発症する感染症です。まさか、あの時の虫刺されがこのブレインフォグの発端だなんて!診断がついて後から驚かれることもあります。ライム病はリーキーブレインの原因因子としてはメジャーです。初期のライム病の症状は発熱など有名ですが、慢性化するとリーキーブレインの症状だけになることがあります。倦怠感だけのこともあります。診断が遅れがち、誤診されていることの多い病気です。
  • 腸のdysbiosis ディスバイオーシス
    上記②の腸関連の項と関連します。腸内細菌のバランスが崩れ不均衡な状態をdysbiosisといいます。例えば消化管内のフソバクテリウム、シトロバクター菌、モーガネラ菌など悪玉菌や、カンジダ菌が過剰に繁殖している状態です。一部の悪玉菌は自分の体の一部(細胞膜の外側)を切り取って周囲にまき散らします。それはリポ多糖類という脂肪と糖質の結合体で、炎症性です。これが腸の壁を貫通して血液の流れに飛び乗り、脳へ到達します。最終的に脳のバリアが壊れます。菌由来のリポ多糖類は腸の毒です。脳にとっても毒でしかありません。

    小腸のガスなどの不快な症状を起こすSIBOも腸内細菌の不均衡です。SIBO(小腸細菌異常増殖症)を起こす菌も最終的に脳のバリアを壊します。SIBOはお腹の不調だけではなく、リーキーブレインにもなりうる厄介な病気です。リーキーブレイン攻略の順序としては、まずSIBOを先に治します。
④有害物質

化学物質や重金属などの有害物質も脳のバリアを破壊します。

非生物由来の毒素には、有機溶剤、有機リン系農薬、ポリ塩化ビフェニル(PCB)や、アルミニウム、鉛、カドミウム、水銀、タバコ、薬物(コカインなどの薬物乱用)などがあります。大気中の有害物質を吸うと鼻から脳に届きます。過剰に暴露するとバリアを作っていた血液脳関門が破壊されて、リーキーブレインになります。

大気中から吸わなかったとしても、腸から体内に有害物質が侵入することがあります。これらの有害物質が水分や食べ物などに混ざって飲み込んでしまっていると、腸の壁から体内に侵入します。そして全身の血液循環から脳に到達します。

リーキーブレインの対策法は?

今から実践できることも含めた、脳を攻撃しないという観点からリストを作成してみました。

  • 睡眠の確保
  • 空気清浄機の設置
  • 部屋を片付ける
  • カビを吸わない
  • 炎症性の食事を摂らない
  • 小麦を食べない。脳にとっての害悪食材は小麦です。
  • 遅延型食事アレルギーの食材を避ける。(特定の検査が必須)
  • 微量栄養素のバランスを整える。(オリゴスキャン検査などでミネラルバランスを確認するのが望ましい)もしリーキーガットを併発しているならば、体に吸収しやすい組み合わせのミネラル製剤を選びます。
  • LUUP(電動のキックボード)はリーキーブレインリスクという認識を持つ。
  • メラトニンを活用する(ホルモンなので医師に相談が必要。メラトニンは松果体のホルモンです)
  • 副腎機能や甲状腺機能などホルモンの調整(ホルモン、医師に相談が必要)
  • 有害物質の解毒(原因治療です。該当するなら優先します。毒の種類によって治療法が異なります。
  • 病原体の治療(原因治療です。該当するなら最優先です。)
    • ライム病を治します。
    • かびの感染を治し、カビ毒を解毒します。
    • 腸内の悪玉菌、腸内細菌の不均衡状態を治します。

治療法まとめ

外傷、脳損傷、脳卒中などの脳の虚血によるリーキーブレインならば修復一択です。再生治療を取り入れます。なるべく早い時期に再生効果のある治療と抗炎症治療を組み合わせます。その上で、栄養状態を整えたり、丁寧に調整します。オゾン大量自己血療法も改善の一助になります。メチレンブルーは古くからあるクラシックな薬剤ですが、近年注目されるようになりました。メチレンブルーは抗炎症効果を有しながら、同時に神経細胞のミトコンドリア機能の回復を促します。リーキーブレインを治す際に血液脳関門の関所部分を修復するのみならず、ミトコンドリアも標的にしています。

脳虚血と脳損傷のように急激に起こったリーキーブレイン以外、つまり、有害物質や病原体が原因のリーキーブレインについては、それぞれの原因物質をターゲットにして治し、脳の炎症を起こす物質を取り除くという根本治療のアプローチを取ります。

治療のサポートになるサプリメントの例

ここに挙げるサプリメントは補完的に服用するものです。リーキーブレインの世界にはこれさえ飲めばたちまち治る、のようなミラクルはないのです。あくまでも根本治療が主です。

  • 腸内細菌のバランスをとるための良質なプロバイオティクス
  • 抗炎症作用を持ち、神経細胞に作用する製剤
    例:EPA/DHA、CBDオイル、グルタチオン、ビタミンD3
  • フォスファチジルコリン(細胞膜の成分)
  • 亜鉛やマグネシウムなどのミネラル(過不足を確認してから検討します)
  • ポリフェノール(レスベラトロール)
  • メチレーションをサポートする栄養素(メチル葉酸、メチルコバラミン、グルタチオンなど)
  • 短鎖脂肪酸(酪酸)
  • ビタミンBコンプレックス(但し、良質の製剤)
脳神経_ウェルネスクリニック神楽坂

まとめ

リーキーブレインを治す理由は、リーキーブレインに引き続いて起こりうる病気を回避するためです。リーキーブレインは認知症への道が開けてしまう病態です。
脳の炎症、神経細胞死、慢性疲労、集中力低下、うつ症状、不眠、頭痛、色々前述しましたが、最終形は認知障害です。
リーキーブレインを解決して、人生の質を高く末長く維持することを目指しましょう。

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コロナ感染による持続的な全身性炎症とその結果生じる局所的なリーキーブレインがブレインフォグを起こすと指摘しています。

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外傷性脳損傷後の脳のダメージを治すためにミトコンドリア機能不全を標的にすることが神経細胞を保護するために合理的である、メチレンブルーはその特効薬だと指摘しています。

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