
(出典:CDC/ Division of Vector-Borne Diseases Rickettsial Zoonoses Branch 2023)
「電磁波のせいでライム病が悪化する」
ライム病はダニなどの節足動物の媒介による感染症です。虫刺されというの皮膚の問題だけではなく、認知症、自律神経異常、しびれや慢性頭痛などの神経の問題や、免疫低下、自己免疫疾患、慢性疲労、関節痛などに発展し、慢性化することが多い病気です。
バルトネラ病はダニ、ノミ、シラミ、猫の爪の引っ掻き傷をきっかけにバルトネラ菌(Bartonella hensalae菌)が感染する病気です。免疫の細胞内や血管内皮細胞(全ての血管の内側の表面に習う細胞)に入り込み、その細胞の中に長く潜む「ステルス感染」をします。慢性疲労、物忘れ、頭痛、関節痛、免疫低下(他の感染症と複合感染しやすい)、足底の痛み、皮膚炎、血管炎、肝血管腫など病状は全身にわたります。そして、さまざまな異物に過敏に反応しやすくなります。例えば、特定の食品、化学物質、臭い、電磁波、音、光です。
ライム病は誤診や診断の遅れなどの理由で治療が難しい病気です。いざライム病と診断されても、電磁波がライム病の治療の足でまといになることがあります。ですから、当院では、ライム病の診断後はまず電磁波への暴露をなるべく減らすようにアドバイスしています。
本日は、なぜ電磁波がライム病やバルトネラ病の治療の妨げになるのかを見ていきましょう。
電磁波のおさらい

- 電磁波(EMF)は周波数によって様々な作用があます。Wi-Fiや携帯電話のシグナルのような高周波から電力線、送電線、家庭用電化製品(電気カーペット、こたつ、ドライヤーなど)、送電線などが放出する低周波まで、各周波数帯域が人体に影響を与えます。Wi-Fiはこの範疇に含まれ、特に自宅や職場での長時間曝露が、頭痛、疲労感、集中力の低下などの症状を引き起こします。また、5Gの急速な普及のため、基地局が街中に急増しています。
- 発癌リスクについては、脳腫瘍や白血病、乳がんなどとの関連が指摘されています。
電磁波とライム病:脳への影響

電磁波の影響は頭皮のピリつき、頭痛やブレインフォグなど頭部に関するものが多いです。ライム病も同様です。電磁波の脳への影響とライム病の脳では共通した病態が見られます。それは、脳の酸化ストレス、脳のバリアの崩壊、大脳辺縁系のダメージの3つです。電磁波とライム病、お互いが足を引っ張り合います。
- 酸化ストレス
神経細胞をはじめさまざまな細胞構造の損傷に重要な役割を果たす酸化ストレスが起こります。ライム病では、酸化ストレスは細胞内感染と菌が誘発した活性酸素と免疫反応の結果として生じます。ライム病では、ボレリア菌が免疫系を刺激し、撹乱し、神経炎症を引き起したり、正常な細胞を間違って攻撃することさえあります。電磁波は電圧依存性カルシウムチャネルを活性化し、細胞が酸化ストレスの急増に見舞われ細胞の損傷、細胞死を引き起こします。ですから、ライム病ですでに神経の炎症があるところに、電磁波の暴露が加わると脳内の構造が炎症が起こり、持続すると神経が回復しにくくなるのです。 - 血液脳関門の破壊(リーキーブレイン)
血液脳関門とは、脳を守るバリア構造です。電磁波暴露とライム病はともにこの脳の保護バリアにダメージを与えます。脳のバリアの構造が完全破綻するとリーキーブレインという状態になります。ライム病では、ボレリア菌が血液脳関門の傷害のきっかけを作り、病原体、有害物質や炎症性物質が脳になだれ込み、耳鳴り、うつ、自閉症、頭痛、不眠、物忘れに発展することがあります。同様に、電磁波暴露が脳のバリアの構造にダメージを与え、脳内の免疫が正常に働かなくなり、電磁波過敏症に発展することもあるし、ライム病の神経症状を悪化させることもあります。電磁波暴露が多い人も、ライム病にかかっている人も、体内の毒量を調べてみると、食品添加物、農薬、除草剤、有機溶剤、水銀、カドミウム、カビ毒など、さまざまな有害物質が過剰に溜まっています。 - 大脳辺縁系へのダメージ
電磁波とライム病(ボレリア菌)は、どちらも大脳辺縁系に悪影響を与えます。大脳辺縁系は、感受性、感情、記憶、ストレス応答、自律神経を司る脳の内側に存在する重要な脳の一部です。電磁波が大脳辺縁系の炎症を起こすとMCAS(マスト細胞活性化症候群)*を引き起こします。マスト細胞が電磁波を認識してヒスタミンなどの大量の内包物を放出し、免疫系や神経系の過剰反応を誘引し突然生じます。
* MCAS:体内の免疫細胞であるマスト細胞が異常に活性化され、過剰にヒスタミンやサイトカインを放出する病態のこと。
ちなみに、カビ菌についての研究結果によると、Wi-Fiルーター近くではカビや真菌の繁殖が数百倍以上にもなるそうです。電磁波に暴露しながらカビを吸うと、体内でもカビが増えやすくなるということですね。カビ暴露があり、電磁波暴露、かつライム病感染の3因子揃うと、脳のダメージが進みます。忘れっぽくなり、倦怠感、気分が落ちやすくなります。」自律神経系が乱れ、腸の運動異常、動機、呼吸困難、体位性頻脈症候群(POTS)も伴います。MCASであれば、突如または、食後や食事中に腹痛や膨満感が起こることがあります。

ライム病の治療の応用
- 環境
ライム病やバルトネラの治療過程では環境要因が重要です。神経系と免疫系へのダメージを強めないために、電磁波曝露を軽減してください。スマートフォン、Wi-Fiルーター、電子レンジなど、高レベルの電磁波を放出する機器への長時間暴露を避けましょう。 - 神経炎症と脳のバリアの管理
ライム病やバルトネラ病患者には、積極的な神経炎症の管理も重要です。メチレンブルー(神経保護作用)、メラトニン、オメガ3やホスファチジルコリン点滴などはミトコンドリア機能のサポートと血液脳関門の炎症の軽減に効果的です。脳の保護バリア、血液脳関門の破綻を修復には再生医療が利用できます。 - 抗酸化療法
電磁波過敏症とライム病の患者はともに酸化ストレスを経験するため、オゾン治療、高濃度ビタミンC療法、グルタチオンなども推奨されます。
まとめ
電磁波の周波数帯域ごとに影響は異なりますが、特に高周波(ラジオ波、WiFi、5G)は神経系や免疫系に深刻な影響を与えます。Wi-Fiが最も広範囲に使用されているため、日常的に暴露しています。長期的な暴露がMCAS、電磁波過敏症、自律神経の異常、慢性疲労、ブレインフォグ、皮膚のしびれやピリピリ感、認知障害、睡眠障害(質の低下)などを起こします。ライム病やバルトネラ病にかかっている時、電磁波暴露は免疫系と神経系へ類似の影響を及ぼし、ライム病やバルトネラ病が悪化します。逆もまた然り。ライム病にかかってると電磁波過敏症を発症しやすくなります。
カビ感染や外傷性脳損傷(脳のバリアの破綻のせい)のある方も同様、電磁波暴露は治癒の妨げになります。光、音、食べ物、臭いなどと比べ、電磁波は最も自分でコントロールしにくい、避けることが難しいものです。
だからこそ、意識して電磁波暴露を減らし、長時間の暴露を避けましょう。
参考文献
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ラジオ無線やWifiの電磁波曝露には、DNA損傷をを起こし、がんや他の重大な健康影響のリスク増加を示す。
Nittby H, Brun A, Eberhardt J, Malmgren L, Persson BR, Salford LG. Increased blood-brain barrier permeability in mammalian brain 7 days after exposure to the radiation from a GSM-900 mobile phone. Pathophysiology. 2009 Aug;16(2-3):103-12.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19345073/
電磁波は繰り返し暴露しても、過敏症の人以外は直ちに悪影響を及ぼさないことがあります。しかし、脳のバリアである、血液脳関門は確実に影響を受け、リーキーブレインになり、長期的に脳の予備力の低下が起こります。数年以上電磁波に毎日の暴露すると、将来自己免疫疾患や神経変性疾患などを発症する可能性がありますよ、という内容の文献。
Altun G, Kaplan S, Deniz OG, Kocacan SE, Canan S, Davis D, Marangoz C. Protective effects of melatonin and omega-3 on the hippocampus and the cerebellum of adult Wistar albino rats exposed to electromagnetic fields. J Microsc Ultrastruct. 2017 Oct-Dec;5(4):230-241.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30023259/
携帯の電磁波曝露は神経損傷を起こすが、メラトニンとオメガ3はその神経保護作用があるという結論。
Stam R. Electromagnetic fields and the blood-brain barrier. Brain Res Rev. 2010 Oct 5;65(1):80-97.
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電磁波暴露でリーキーブレイン(血液脳関門の破綻)になる。
Nathan, Neil (2017). “The Sensitive Patient’s Healing Guide: Top Experts Offer New Insights and Treatments for Environmental Toxins, Lyme Disease, and EMFs.”
ライム病患者の病態は免疫機能の低下や神経炎症のため、電磁波過敏症になりやすいです。
Bush, J.C., Robveille, C., Maggi, R.G. et al. Neurobartonelloses: emerging from obscurity!.Parasites Vectors 17, 416 (2024)
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バルトネラも脳と末梢神経両方において神経炎症を起こします。自閉症、統合失調症、うつ病などの精神疾患も発症可能性が高くなります。
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