神経ボレリア症:脳と神経を侵すライム病 

脳神経_ウェルネスクリニック神楽坂

今日はライム病の「神経ボレリア症」という神経障害をテーマにしたいと思います。ライム病はダニが媒介される細菌感染症で、その原因菌であるボレリア菌は、適切な治療けないと体内で長期間生存し続け、多様な健康問題を起こします。その中でもライム病の菌が神経系に影響を及ぼす、神経ボレリア症という深刻な病態を見てみましょう。

神経ボレリア症とは?

神経ボレリア症は、ボレリア菌が中枢神経系や末梢神経系に侵入し、神経に炎症を引き起こす病態です。この病態は、ライム病の進行によって引き起こされ、治療が遅れると神経痛や手足の麻痺、耳鳴りなど起こったり、将来のアルツハイマー病のリスクが高くなることが知られています。

ボレリア菌の脳内への侵入

ボレリア菌は、血液脳関門を突破して脳内に侵入します。この細菌が脳に侵入すると、グリア細胞と呼ばれる支持細胞が反応し、炎症を引き起こします。グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの3つから成り立ちます。グリア細胞はニューロンの健康を維持し、脳内侵入の異物体に対する免疫担当をしたり、神経系の正常な機能を支える重要な役割を果たします。ボレリア菌の侵入があるとグリア細胞が過剰に反応し、炎症が起こる結果、ニューロンが損傷を受けます。

神経系は脳(中枢神経系)と末梢神経で構成されていますが、ライム病のボレリア菌は両方に影響を及ぼします。
まず脳(中枢神経)からみていきましょう。脳は髄膜という膜に包まれ、膜内を脳脊髄液が頭から脊椎まで循環するなか、脳脊髄液の間に浮いた状態で存在してします。ライム病が髄膜に感染すると、吐き気、頭痛、項部硬直(首が硬くなる現象)、光や音に過敏になるなどの髄膜炎様の症状が起こります。ライム病の菌が髄膜からさらに脳内に侵入すると脳炎症状が起こります。例えば、顔面麻痺、顔面の痛み、顎関節症、耳鳴り、難聴、めまい、吐き気、前庭神経炎、平衡感覚異常、眼球運動異常、視力低下、複視、記憶力低下、集中力低下、メンタルの異常などは、ライム病が脳内へ影響を及ぼしているということです。
 
一方、末梢神経への影響としては、手指足指が動かしにくい、四肢の痛みや痺れ、全身のしびれ、皮膚の過敏症、麻痺などを起こす末梢神経障害などがあります。また、脊髄から神経が出るところの神経の根の部分に感染が及ぶと、左右どちらかの脚または腕の灼熱感やナイフで刺されるような痛みといった神経根症状が起こります。ちなみに、ライムの神経根症状の場合MRI画像診断では神経根圧迫といった異常が見つかりません。自律神経への感染は頻尿、血圧異常、動悸、POTS(体位性頻脈症候群)、消化不良、下痢、便秘などが起こります。POTSは立ち上がった時のめまい、動悸だけではなく、慢性疲労、運動制限や学業や就労制限も起こり、原因不明と見做されることがほとんどです。自律神経失調もストレス過多とか原因不明と見なされやすい疾患名ですが、実はライム病が関与していることがあります。

ニューロンへの影響

ニューロンは、神経細胞のことで神経系の基本的な機能単位です。ニューロンの損傷は深刻な影響を及ぼします。ボレリア菌によるニューロンへの直接的な影響としては、神経細胞死(アポトーシス)や神経伝達物質の異常分泌です。これにより、患者は慢性疲労、集中力の低下、抑うつ、過度な緊張、記憶力低下、不眠など日常生活に支障をきたします。

グリア細胞の炎症と軸索損傷

脳の中にはニューロン(神経細胞)が存在しますが、それ以外の部分はグリア細胞という名前がついています。部位にもよりますがニューロン対グリア細胞はおよそ1対1の比率で脳を構成します。近年までグリア細胞はあまり注目されてきませんでしたが、グリア細胞はライム病を考える上でとても大事です。脳のクレンジング、ニューロンへの栄養供給、脳の免疫担当も司ります。てんかんや自閉症や認知症もグリア細胞が主に関与することがわかってきました。グリア細胞は私たちの人生に大切な組織です。ライム病の菌が脳内侵入するとグリア細胞に炎症が及びます。グリア細胞の炎症や細胞死(アポトーシス)が起こるとニューロンの軸索(神経線維)に損傷を与えます。軸索は、神経まで情報伝達を
します。電線のコードのような存在が軸索です。コードのダメージのせいで神経伝達の効率が落ちて、さまざまな神経症状が起こります。具体的には、認知機能低下、記憶障害、運動機能低下、感覚障害、電磁波過敏症です。特に電磁波過敏症は環境の変化とともに近年増えています。けいれん、嚥下障害、言語障害、吃音、歩行困難、呼吸のための筋肉が作動しないなど重篤な症状に進行することもあります。

神経ボレリア症の症状

神経ボレリア症の症状は多岐にわたります。初期には、頭痛、首のこわばり、光過敏などの非特異的な症状が見られ、病気が進行すると背部痛、全身の痛み、不眠やけいれんなど多岐にわたる神経症状が起こります。

  • 慢性疲労:持続的な倦怠感。回復が遅い。
  • 認知障害:集中力の低下、記憶力低下、判断力の低下、独創性、意欲低ど。
  • 運動機能障害:筋肉の衰え、手足の脱力、歩行障害。
  • 感覚異常:しびれ、灼熱感、刺すような痛み、皮下や皮膚の感覚異常。神経根症の症状。麻痺。末梢神経障害
  • 精神的症状:うつ、不安、気分の変動。元々うつ傾向のある人は悪化する。
  • 自律神経の異常:頻尿、動悸、血圧異常、体温調節異常、腸の異常な動き、ガス、下痢、便秘)など。
  • 脳神経:眼球運動異常、まぶたが重い、視力低下、難聴、耳鳴り、バランス感覚異常、めまい、顔の麻痺(片側)、顎、ほお、額の痛み、顎関節の痛みや違和感、迷走神経異常、嗅覚や味覚の異常。

将来的な神経疾患のリスク

神経ボレリア症の炎症プロセスが慢性化すると、認知障害、頭痛、全身痛を発症しやすくなります。長期的な影響として、アルツハイマー病や認知症など神経変性疾患発症のリスクが高まります。ボレリア菌の直接の影響で、前述の神経根症、髄膜炎、髄膜炎、脳脊髄炎またはそれらに準ずる神経症状を発症します。

診断と抗菌治療

神経ボレリア症の診断は、ボレリア菌のDNAを検出するPCR検査や、特異抗体を検出する血液検査と臨床症状から判定します。
神経ボレリア症の治療は、ドキシサイクリンやロセフィンなどの抗生物質を使用します。後期神経ボレリア症の場合、抗菌効果を持つ天然製剤の併用や投与法の追加も必要です。血液脳関門の通過可否の影響も考慮します。メチレンブルーというメトヘモグロブリン血症用の製剤が見直され、近年のジョンスホプキンス大学の研究では抗生物質と組み合わせたメチレンブルーがライム病に最も有益だと示しています。

オゾン療法と幹細胞など

オゾン療法や幹細胞(ステムセル)の再生医療も神経ボレリア症の治療に役に立ちます。
自己血を利用するオゾン療法は、ボレリア菌のバイオフィルムを除去し、バイオトキシンの除去、抗菌、抗炎症作用があります。オゾン療法では免疫システムの活性化や酸素供給の改善が期待されます。オゾン療法は、多様な生理活性の物質を動員して抗炎症と抗菌効果を発揮します。
幹細胞を用いる再生医療は、損傷を受けた神経組織の修復や組織再生を促します。間葉系幹細胞またはその幹細胞培養上清駅を点滴投与すると、治癒が必要な体の領域に届いて再生プロセスが開始されます。また炎症を減らし、免疫反応を調整する力があります。特に後期神経ボレリア症で脱髄など神経組織の損傷が重症な場合、積極的に導入する価値があります。神経前駆幹細胞はニューロンとグリア細胞に分化して神経を再生します。グリア細胞が再生されると、ミエリン再形成を促し、脳の慢性炎症を鎮め、血液脳関門の再構築にも作用し、ライム病の再感染対策、ひいては将来のアルツハイマー病の予防にもなります。
 
ミエリン再形成のためにはその主成分であるリン脂質治療も効果的です。リン脂質はアセチルコリンの前駆体でもあり、またリン脂質が細胞膜の解毒促進をします。
 
以上の治療法は、抗菌対策と組み合わせ全方位型の包括的な手段で神経ボレリア症を改善に導きます。
 
 
参考文献
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