はじめに
ライム病は、ダニなどの虫がヒトに病原体を移すことによって引き起こされる深刻な感染症です。近年、著名人がこの病気にかかったことが報道され、多くの人がライム病について関心を持つようになりました。しかし、この病気についての一般的な理解はまだ不十分です。本記事では、ライム病の基本情報からその症状、予防方法、そして治療法について紹介します。
ライム病の原因
ライム病の原因菌はボレリア菌という細菌です。この細菌はマダニやノミなどの虫を介してヒトに感染します。ボレリア菌には、ボレリア・バードフェリやボレリア・リカレンティスなど、数百種類の亜種が存在します。また、ライム病のボレリア菌は、虫の媒介による他の感染症と混合感染することがよくあります。例えば、バベシア、バルトネラ、アナプラズマ、エールリキアなどが挙げられます。これらの病原体を持つ虫に接触すると、同時に複数の感染症にかかることがあり、これを混合感染と言います。混合感染の場合、ライム病単独の場合よりも治療が困難になります。
ライム病の予防
ライム病にかからないためには、まずは虫に刺されないようにすることが重要です。一般的に、ライム病にかかりやすい状況はキャンプなどの草むらで長時間過ごすことが知られています。ネットや文献では、ライム病はマダニによる病気でアウトドア活動に関連するものとされていますが、近年の報告では必ずしもそうとは限らず、屋内でもライム病にかかります。
例えば、段ボールに付着したダニから感染します。クモもライム病を人に移します。また、水害でカビが生えた室内やネズミなどの小動物が住む建物に生息するく虫、ペットのノミやシラミなどもライム病の媒介者となります。このため、屋内外を問わず、虫との接触を避けることが重要です。もちろん虫が発生しにくい住環境づくりも大切です。
ライム病の症状
ライム病にかかっているのではないかと心配な方は、以下のよくある症状を参考にしてください。ライム病は症状が多岐にわたり、300種類もの全身症状が報告されています。以下に代表的な症状を挙げます。
皮膚症状:最初に小さな赤い点の隆起が刺された部位にできます。数日以内に消えることがありますが、その後、その点を囲むようにサークル型の発疹が発生します。薄いピンク径数センチから10cm程度のものです。ただし、全ての症例で見られるわけではありません。
全身症状:発熱、悪寒、体の痛み、頭痛、ストレートネック、首や脇などのリンパの腫れ、倦怠感、慢性疲労、疲労回復の遅延、が起こることがあります。
関節や筋肉の痛み:顎関節症、リウマチ、大きい関節の痛み(肩甲骨、骨盤、股関節、膝など)激しい関節痛や筋肉痛を伴うことがあり、歩行や物をつかむときに支障が出ることもあります。
心臓・呼吸器症状:不整脈、呼吸困難、呼吸をしていても酸素不足を感じることがあります。
消化器症状:胃腸の不快感、腹部膨満感、下痢、便秘、吐き気、消化不良などを伴うことがあります。
神経・精神症状:記憶力や学習力の低下、うつ症状、不安、睡眠障害、睡眠の質の低下、ブレインフォグ、けいれんが起こります。
免疫・アレルギー症状:膠原病や自己免疫疾患を発症しやすくなります。顎関節症や顔面の違和感、歯肉炎を起こすことがあります。また、ホコリ、粉じん、化学物質、農薬、特定の食材に対するアレルギーを持つようになることがあります。
ライム病の診断
ライム病を疑った際には、適切な診断を的確に行うことが重要です。通常、マダニに刺されて感染する病気として知られていますが、必ずしもマダニだけが媒介するわけではありません。部屋のダニ、クモ、ノミ、シラミ、トコジラミなど、他の虫もライム病を伝染させることがあります。また、典型的なライム病の症状、刺された部位を囲むピンクの丸い湿疹は有名ですが、必ずしも発現すると限りません。高熱を出すとも限りません。虫に接触したことさえ気づかず、平熱のまま、皮膚症状の記憶がなく、ライム病が慢性化することがあります。
実は、このような感染のきっかけが放置され、慢性化したライム病の患者の方が圧倒的に多いのです。慢性のライム病の場合、ボレリア菌が細胞内、ミトコンドリア内と深部に到達しているため、確実な検査は負荷試験によるPCR検査です。血液検査の抗体検査では偽陰性になりやすく、慢性感染のライム病は見逃されがちです。
ライム病の治療
ライム病と診断されてからは、治療を受けるのが早ければ早いほど回復する可能性が高くなります。慢性化すると治癒まで時間がかかります。また、慢性化したライム病治療に取り組むときには工夫が必要です。単純に抗生剤を服用すれば治るわけではありません。
急性のライム病に効く抗生物質としては、アモキシシリンやドキシサイクリンなどが知られています。しかし、ライム病が慢性化してしまうと話は違います。ライム病の原因菌であるボレリア菌は非常に進化した菌であり、様々な小細工をしてヒトの体内で生存しようとします。例えば、のう胞型になったり、細胞膜の隙間に隠れたり、免疫撹乱をしたり、バイオフィルムをまとったり、変異を繰り返し薬剤から逃れたりするなどの特性があります。そのため、慢性ライム病には抗生剤が効きにくくなります。
慢性ライム病の経過中には免疫力が低下し、他の日和見感染症にかかることや、ホルモンの機能低下(甲状腺、副腎、卵巣、精巣、下垂体、松果体など)、胃腸機能低下、自律神経失調、ミトコンドリア機能不全、リーキーガット、水銀中毒などが進行することがあります。コロナ後遺症もその一例です。慢性ライム病と全身機能異常や他の感染症との合併はよくあります。
ライム病とカンジダ菌の関連
慢性ライム病に対する治療の一環として、免疫抑制剤や抗生物質の服用を継続していると、カンジダ菌が増えてしまうことがあります。カンジダ菌は通常、腸内に存在する常在菌ですが、免疫力が低下すると異常繁殖し、体内の免疫力をさらに低下させます。これにより、ライム病の治療がさらに困難になる場合があります。カンジダ菌感染症の症状には、消化不良、腹部膨満感、便秘、下痢、皮膚のかゆみ、倦怠感、ブレインフォグ、口腔内の白い斑点などがあります。これらの症状が現れた場合は、ライム病の治療と並行してカンジダ菌の対策も必要となります。
結論
ライム病は、他の感染症の概念を覆す厄介な病気です。原因菌であるボレリア菌は治癒を困難にする多くの特徴を持っています。断片的な知識でライム病の特徴を知らないまま治療に臨むのはお勧めできません。ライム病が慢性化すると闘病期間が長引き、治療が複雑になります。
ライム病に対する治療を成功させる秘訣は、ボレリア菌の動きを十分に理解し、全身の機能異常を大局的に捉えた上で、合理的な治療戦略を立てることです。ライム病の治療に長けている医師に相談し、適切な診断と治療を受けることを強くお勧めします。
慢性ライム病の治療においては、カンジダ菌、寄生虫、腸内の日和見感染、ピロリ菌、マイコプラズマなど、他の慢性化しやすい感染源にも注意を払い、混合感染を計画的に治します。
全身の健康を維持しながら、ライム病とその合併症に対処する例を見てみましょう。ライム病の数ある症状の一つでしかない、関節リウマチを考えてみてください。リウマチの痛みと炎症をコントロールしていても、その裏にはライム病がいつまでも自己免疫異常を起こし続けます。ライム病の起こしうる全身多岐にわたる問題の1個がたまたま目立つ症状だったとしても、そこばかり着眼しているといつまでも本質的な問題解決に至らないのです。
ライム病は決して軽視できない病気です。正しい知識と適切な治療を通じて、健康な生活を取り戻しましょう。