部屋のカビが脳を侵す

カビたベッドルーム_ウェルネスクリニック神楽坂


カビっぽい部屋に住む人、もしそのカビが住人の集中力や記憶力の低下を起こすとしたらどう思いますか?

カビがアレルギーの原因、という認識は一般的になってきました。くしゃみ、咳、喘息など、わかりやすい反応をするためです。 しかし、カビにはもっと深刻な有害性があります。 それは脳へのダメージです。

カビは、鼻から脳に届く

吸い込んだカビは、鼻の奥の「嗅神経」を通って、脳へと侵入します。 この侵入経路によってとくに影響を受けやするが、大脳辺縁系と呼ばれる脳の深部領域です。 この脳の深い部分は「大脳辺縁系」という、感情や記憶を司るところです。不安、恐怖、感情、記憶、本能的な行動を調整するこの部位が炎症や酸化ストレスの影響を受けると、さまざまな症状を起こします。例えば,

  • もの忘れや集中力の低下
  • 不眠、悪夢、眠っても疲れが取れない
  • 気分の落ち込み、やる気の低下
  • 情緒不安、不安感、イライラ
  • 物事の判断がつかない、考えがまとまらない

いわゆるbrain fog(脳に霧がかかったような状態、頭がぼんやり)と呼ばれる、脳の不調が多いです。不眠、頭痛、めまいもあります。耳鳴りや、聴覚過敏も起こります。咳などの気管支の症状もありますが、総じて首から上の頭全体の様々な症状が起こります。

カビが直撃する「大脳辺縁系」

大脳辺縁系LimbicSystem_ウェルネスクリニック神楽坂
大脳辺縁系 (出典:Medical gallery of Blausen Medical 2014)

脳の最も内側、中心部に位置する大脳辺縁系は、動物的な本能に関わる作用を担います。別名は哺乳類脳です。動物的な哺乳類脳に対して、人間特有の、理性、論理、思考などをつかさどるところは大脳皮質という部位で、人間脳です。この人間脳は脳の大脳辺縁系の外側を取り囲むような配置になっています。大脳辺縁系は大脳皮質とは異なり、私たちの感情・記憶・本能的行動を支える“心の根っこ”のような働きを担います。大脳辺縁系は脳の中で最も内側で、以下の4つの構成要素でできています。

大脳辺縁系の内訳4つ「海馬・扁桃体・視床下部・帯状回」

海馬:記憶の司令塔として、新しい出来事を記録し、脳内に定着させる役割を担います

扁桃体:怒りや恐怖などの感情を処理し、感情のアクセルとブレーキを担当します。

視床下部:体温、食欲、性欲、自律神経を調整し、生命維持に必要な活動をコントロールします。

帯状回:感情と行動の調整に関与し、不安や抑うつの発症にも関係するとされています。

部屋のカビを吸ってしまうと、まず直撃を喰らうのが、鼻の奥の「大脳辺縁系」です。ですから、カビとカビ毒(マイコトキシン)上記4つの部位はそれぞれ機能低下に陥ります。人間がカビの猛威に気付かず、日々吸い続けると、単なる体調不良では片付けられないような、生活の質の大きな低下につながります。Mold anger(直訳:カビの怒り)という急にキレたり、怒り心頭といった特徴的な症状があります。カビを吸って、扁桃体が炎症を起こし慢性化すると、brain fogにもなっているため、会話が噛み合わなかったり、言葉の言い間違いがあったりする中で、いきなりキレることもあります。周囲の者から支離滅裂とか意味不明に見られることもあります。

大脳辺縁系がダメージを喰らうと、記憶障害、情緒不安定、うつ、不眠、過食、無気力、性欲低下、自律神経失調などを生じます。MCASや化学物質過敏症も起こりやすくなります。扁桃体には大量のマスト細胞があるためです。カビ毒を吸った人に起こる症状は大脳辺縁系に関連しているのです。

カビの種類と、発生しやすい部屋の特徴

室内でよく見られる代表的なカビ。

  • アスペルギルス(Aspergillus):日本の家庭で最も多く検出されるカビで、エアコン内部や浴室、押し入れなどに多く見られます。一部の種類(A. fumigatusなど)は強いマイコトキシンを産出し、肺アスペルギルス症や慢性副鼻腔炎、脳炎の原因になることもあります。免疫力が低下している人では命に関わる重篤な感染症を起こすことがあります。
  • クラドスポリウム(Cladosporium):窓枠や押し入れ、カーテンに多く見られる黒カビの一種で、アレルギーの原因として知られています。
  • ペニシリウム(Penicillium):青カビとして知られ、食品や畳、家具、布製品などさまざまな場所に繁殖します。空気中に大量の胞子を飛ばすことがあり、呼吸器症状の悪化を招きます。
  • スタキボトリス(Stachybotrys):いわゆる“黒カビ”で、湿った石膏ボードや壁紙の裏などに潜みます。強力なマイコトキシンを産出し、アメリカではこのカビによって死亡事故が起きた例もあります(例:1990年代に米国オハイオ州で乳児が大勢死亡した事件)。

環境中のカビは、以下のような条件で繁殖しやすくなります:

  • 室内湿度が40%以上に維持されている(除湿対策が不十分)
  • 紫外線が届かない暗い場所
  • ホコリ、布製品、段ボール、書籍など、有機物が放置されている空間
  • 換気不足・結露・密閉空間
  • 温度25〜30℃の、人が快適に過ごしやすい環境

「カビ臭い」と感じるときには、すでに室内に胞子やカビ毒が充満している可能性があります。

吸い込んだカビは、どこへ行くのか?

脳・肺・腸、3つの侵入ルートとその先にある影響

部屋に繁殖したカビは、目に見える胞子だけでなく、目に見えない微細な毒素(マイコトキシン)も空気中に放出しています。これらは呼吸や食事を通じて、さまざまなルートから私たちの体内に入り込みます。メインの3つのルート、脳と肺と腸を通ったカビ毒は体の影響を及ぼします。

① 鼻から脳へ:嗅神経ルート

鼻の奥には「嗅神経」という、脳と直接つながる特殊な経路があります。ここは、血液脳関門(BBB)を通らずに中枢神経へ物質が届いてしまう裏口のような存在です。

マイコトキシンの中にはナノサイズの粒子もあり、吸い込んだ瞬間にこの嗅神経ルートを通って、直接大脳辺縁系や視床下部にまで到達することがわかっています。こうして引き起こされるのが、brain fog(頭がぼんやりする)、記憶力の低下、不安感、睡眠障害など、神経症状です。

この経路は、カビを吸い込んだとき特有の「頭が重い」「考えがまとまらない」「突然気分が沈む」といった、本人にも説明がつきにくい感覚として現れることがあります。

② 気道から全身へ:肺→血流のルート

吸い込まれた胞子やマイコトキシンは、まず喉や気管支、肺胞に到達します。ここでは、呼吸器の粘膜細胞を刺激し、咳や喘息、慢性気道炎のような症状を引き起こします。

さらに厄介なのは、肺から血液中へ吸収された毒素が全身を巡り、肝臓・腎臓・脳・筋肉といった臓器に二次的なダメージを与えることです。中でもグリオトキシン(カンジダやアスペルギルス由来)は、白血球の働きを抑え、免疫機能を低下させます。感染症にかかりやすくなったり、がんのリスクが高まるとされるのは、このためです。なお、グリオトキシンやオクラトキシンはそれ自体が発がん性物質とも知られています。

③ 経口摂取から:腸→全身へのルート

古い食品や水道水の汚染、また空気中に舞った胞子を無意識に飲み込むことで、カビの菌やカビ毒(マイコトキシン)は腸に到達します。

腸内では、破壊的な威力で腸内環境の菌のバランスを崩します。これはDysbiosisという腸内細菌がアンバランスになる状況です。もともと腸内細菌は60兆個一人の人の腸内に共生してお互いバランスを取り合い体を守ってくれているのです。Dysbiosisという崩れた状態になると、腸粘膜はカビ毒に対して剥き出しになり、炎症を止められず、リーキーガット(腸漏れ)になりやすくなります。すると、通常は体内に侵入するはずのない毒素や未消化物質が腸粘膜から血液中に漏れ出します。全身に慢性炎症が広がったり、免疫が撹乱する自己免疫異常の引き金となります。

また、ここから吸収された毒素は肝臓に送られ、代謝と排泄の負担が一気に増加します。アフラトキシンやオクラトキシンなど、肝毒性や腎毒性のある物質は、デトックスが追いつかないと体内に蓄積し、肝炎や腎障害、がん、慢性疲労症候群、ホルモンバランスの乱れへとつながります。

体に入ったカビ毒はどうしたら出せるのか?

鍵を握るのは細胞膜とミトコンドリア

カビ毒の厄介な点は、脂溶性であるために細胞膜の構造の脂部分にからみついてしまうことです。細胞膜は2層構造なので、膜と膜のニッチな隙間に毒素がどんどん溜まり、細胞の中と外で出入りするはずの物質の動きが悪くなりますので、代謝が悪くなります。とくに脳や神経のような脂質に富んだ臓器では、こうした毒素が長期間残留し、脂質は錆びてしまい、慢性の機能障害を引き起こします。細胞の中にはエネルギーの発電所であるミトコンドリアという、小さな工場がありますが、この工場の外壁となる膜の構造もホスファチジルコリンです。

カビ毒が傷害を与えたところ、つまりカビ毒が溜まっているところ、それはホスファチジルコリンの脂部分です。ですから、カビ毒を取り除きたいときは、ホスファチジルコリンが必ず関わってきます。傷んだ細胞膜をカビ毒ごとごっそり置き換え、毒素のない細胞に戻し、細胞の機能を取り戻します。脳に治療薬を確実に届けるためにカビ毒治療の細胞膜成分の点滴治療を行います。

カビ毒治療の点滴を繰り返すことで、以下のようなメカニズムで特に脳内の細胞膜に蓄積してしまったカビ毒を除去します。

  • 神経細胞やミトコンドリアの膜修復
  • 細胞膜の脂部分にからみついたカビ毒を丸ごと体外へ排出
  • 脳の情報伝達の正常化
  • 慢性疲労やbrain fogからの回復

注目すべき点は、時間をかけて点滴をしながら体中の血管にホスファチジルコリン成分を届け、通過した部位の細胞膜は全て掃除をすることです。血液脳関門という脳の血管のバリアを通過することができるので、確実に神経細胞にまとわりつくカビ毒も一掃します。サプリメントでは届かない領域、細胞膜の隙間に薬剤が入り込み、毒素を動かします。体調不良が慢性的に続く方や、自閉症、検査では異常が出ないけれど脳の機能が明らかに落ちているという方にとってはファーストチョイスです。症状を抑えたり症状を先延ばしするだけの対症療法とは異なる、再生医療的な位置づけで活用されています。この治療法はカビ毒の治療の適応だけではなく、神経変性疾患のアルツハイマー病やパーキンソン病、電磁波過敏症やMCAS(マスト細胞活性化症候群)も含みます。カビの菌自体の殺菌とPKプロトコールでカビ毒を軽減した後は、幹細胞を利用した再生医療を検討するのも良いでしょう。さらにレスベラトロールやクルクミンのような脳の炎症を軽減する物質を取り入れるのも手です。

最後に:カビは脳を侵す

カビを放置すれば、脳の深部にまで届き、あなたの感情や記憶、判断力、自律神経の機能をむしばみます。

空気清浄機さえ設置すれば解決するわけではありません。室内のカビ対策としては、部屋の湿度を下げ、断捨離もして、カーテンを開いて明るくしてください。体内のカビ菌は適切な薬剤で殺菌し、体内に増え続けるカビ毒にも医学的なアプローチで対処しましょう。brain fog や物忘れ、自律神経の乱れといった症状は、加齢現象だの、更年期だ、ストレスのせい、睡眠不足と片付けて自己解決しがちです。 しかし、子供もカビを吸い続けたらブレインフォグになります。カビの部屋で安眠はできません。睡眠時間を確保したところで起床時から頭重感、顔のむくみ、だるい目覚め…。室内のカビ環境が見落とされたせいで頭に不調が起こることは多々あります。

「もしかして、カビなのかな…。」と気になった日は転機です。見過ごさず、環境医学に対応しているウェルネスクリニック神楽坂へご相談ください。カビによる健康被害は、情報を正しく知ることで、予防も回復も可能です。

参考文献
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