
腸を治したい、元気になりたいなら、部屋のカビを見直そう。
部屋の隅、窓枠の結露、浴室、エアコンの中のカビ。多くの人にとっては見た目が不快だったり、掃除が面倒という程度の存在かもしれません。
しかし医学的にみると、部屋のカビは健康被害を起こす黒幕です。「ただの汚れ」ではなく、体を静かにむしばむ有害な毒素を産生し続けます。この毒素は腸に届き、腸内環境を乱します。
部屋カビを吸うと初期は咳や鼻水、肺炎になることもあります。腸に届けば腸内細菌のバランスが崩れて、お腹が張ったり、下痢、便秘になります。脳の症状も多く、不眠、イラつき、物忘れ、頭痛になることもあります。元々の体力、体質や基礎疾患によって、同じようにカビを吸っても症状には個人差があります。しかし、カビ毒暴露の場合、共通する現象は、最終的に免疫が低くなることです。
カビ毒に長期間さらされた人は、免疫チームが戦いすぎて、免疫細胞自体が疲弊し、免疫の訓練所に当たる胸腺という臓器も萎縮し、免疫細胞が整列するはずの粘膜の構造破綻も起こり、ボロボロになります。新しく体に侵入する病原体に対して攻撃ができない防御ゼロ状態になります。
体内カビ(カンジダ)と環境カビ
患者さんからよく受ける質問に「カンジダと部屋のカビって同じですか?」というものがあります。
- カンジダ
もともと腸や口の中、皮膚に存在する常在菌です。通常は問題を起こしませんが、免疫が落ちると繁殖しすぎて、病的な量まで増えます。日本ではカンジダというとカンジダ性膣炎という婦人科の病気としても知られています。カンジダ性膣炎は痒くて不快なためわかりやすいのですが、感染部位が膣でなく、腸の場合は即座に診断にも治療にも至らないことが多いです。 - 環境カビ
家の中や食品に生えるアスペルギルス、スタキボトリス(いわゆる黒かび)、ペニシリウム、フザリウムなどです。室内空気中に浮遊するアスペルギルス菌を吸ってしまい肺アスペルギルス症を発症することがあります。元々体の中にあるわけではなく、空気中から取り込んでしまい肺炎を起こしてしまうという病気です。なお、アスペルギルスやスタキボトリスなどは、ヒトにとって極めて有害な毒素(オクラトキシン、アフラトキシン、トリコテセンなど)を産生します。カビが産生する毒素をまとめてマイコトキシン(直訳はカビ毒です)と呼びます。
カンジダ菌と環境由来のカビ、菌としては別物ですが、真菌というくくりで、性質が似ています。体内で共存して、慢性炎症を起こし、徐々に免疫を下げます。環境由来のカビを吸い込むと、腸のバリアが壊れやすくなり、脳のバリアもダメージを受け、腸脳相関の連携が崩れ、免疫や解毒代謝が脆弱になります。最終的に体内のカンジダがさらに成長しやすくなり、炎症や感染が治りにくくなります。
腸バリアの破綻 ── リーキーガットの始まり
吸ってしまったカビ毒(マイコトキシン)の大半は腸にも届きます。腸には、粘液・上皮細胞・免疫細胞の三重のバリアがあり、通常は外からの有害物質を防いでいます。
しかし、マイコトキシンはこのバリアを破壊していきます。
- 栄養吸収障害:ビタミンBややミネラル、とくに亜鉛不足を招きます。
- SIBO(小腸内細菌異常増殖)・SIFO(小腸内真菌異常増殖):本来きれいななずの小腸で細菌やカビが以上に増える状態です。腸内の体を守るはずの善玉菌の腸内細菌が不足します。過剰なガス、腐敗臭、腹痛や腹部膨満感を引き起こします。
- リーキーガット:腸の壁に“すき間”ができ、未消化の食べ物や毒素が血流に漏れ出す状態。全身炎症の引き金になります。
- セリアック病:小麦などに含まれるグルテンで腸に炎症を起こす遺伝性の病気。
この時点で、慢性疲労、遅延性食物アレルギー、自己免疫疾患、MCAS(マスト細胞活性化症候群)発症のリスクが高まっています。
脳への影響 ── リーキーブレイン
カビ毒の怖さは腸にとどまりません。腸と同じように脳にも「血液脳関門」という、脳の血管を守るバリア構造があります。普段はピタッと閉まっている門(タイトジャンクション)ですが、脳の血管に入れても良い物質であれば、門を開いて招き入れ、即閉じます。一方、空気中から吸ってしまったカビは鼻の奥から脳に届きます。血液脳関門にも届きますが、これが継続するといずれ血液脳関門のタイトジャンクションが破綻します。神経炎症、認知機能低下、頭痛、不眠、うつ症状、さらには認知症リスクの上昇とも関係します。
さらにカビ毒は、腸から吸収されて血液に乗り、肝臓、腎臓、そして腸由来で脳にも影響を与えます。
その結果、次のような症状が現れます。
- 集中力が続かない、頭に霞がかかったような感覚(brain fog)
- 記憶力低下、物忘れ
- 不眠、頭痛、気分の落ち込み
- 顔のむくみや肌荒れ
特に大脳辺縁系と呼ばれる感情と記憶を司る部位が影響を受けるため、情緒不安定、視床下部―下垂体系のホルモン異常、自律神経の乱れ、うつ傾向が強まります。

「病原体の受け皿人間」とは?
前述した通り、カビを吸うと行く末は免疫低下です。免疫が働かなくなると、そのヒトの体にさまざまな病原体が巣食うことになります。例えば、室内のカビを大量に吸ってしまった方の中にカビの治療をしてもなお不調が続くことがあります。免疫の守る力を持っていない人間の体には次々にいろんな病原体が入ります。カンジダ感染が見つかることもあり、他の追加検査をしてみるとカビ以外にもさまざまな病原体が見つかります。ひとりの人間の身体に病原体の定員数はありません。まるで病原体の受け皿状態です。

よくある混合感染の例としては。
- ダニ媒介感染症:ライム病、バベシア、バルトネラ、エールリキア症
- ウイルス:EBウイルス、HHV-6、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス
- 寄生虫:アメーバ、ジアルジア、ブラストシスチス・ホミニスなど
- 腸内の日和見菌:モルガネラ菌、フソバクテリウム菌、クラブシエラ菌、緑膿菌など
- ピロリ菌
さらに、腸内フローラの乱れ(dysbiosis)によって悪玉菌が増え、菌由来のLPS(リポ多糖)などの毒素が血流に入り込み、炎症が全身に拡大します。カンジダ菌や環境カビ由来のカビ毒も発生し続け、腸管粘膜に炎症を起こします。
ミトコンドリアへの打撃と慢性疲労
カビ毒(マイコトキシン)は細胞内のエネルギー産生工場である「ミトコンドリア」を直撃します。ミトコンドリアを壊すので、カビ毒にさらされると疲れやすくなります。たとえば寝室のカビを日々吸いながら、リフレッシュした目覚めや毎日元気はつらつ…は無いです。
- エネルギー不足 → 慢性的な疲労感、集中力低下
- 解毒・代謝不全 → 有害物質の蓄積
- 活性酸素の増加 → 慢性炎症
寝ても疲れが取れない慢性疲労になったり、神経細胞死が起こり、ブレインフォグや記憶力低下、学習力や意欲低下など起こりやすくなります。
がん・ホルモン・臓器の病気にも関与
カビ毒は発がん性を持ち、ホルモンを撹乱することもあり、神経と脳の障害を起こし、肝臓と腎臓への負担をかけます。
- がん:食道がん、胃がん、大腸がん、肝がん、胆道がん、頭頚部がん、乳がんなど
- ホルモン系:子宮筋腫、子宮内膜症、乳腺症、卵巣嚢腫、PMS(月経前症候群)、月経異常、早産、流産リスク、不妊(男女とも)、体重異常(痩せすぎと肥満)、甲状腺異常など
- 臓器毒性:肝障害、腎障害(小林製薬のサプリ汚染事件の例が記憶に新しい)
- 神経毒性:認知症リスク、不眠、頭痛、うつ症状、血液脳関門の破綻、自閉症など
- 免疫系:易感染性、発がん、自己免疫疾患(リウマチ、甲状腺の病気など)
遅延型食物アレルギーとMCAS
カビ毒で腸が壊れると、遅延型食物アレルギーが現れやすくなります。これは食べてすぐ反応する即時型の免疫反応IgE型アレルギーメカニズムが異なる、数時間〜数日後に症状が出るIgG型という免疫反応です。食事のタイミングと症状の発症に時間差があるため、本人アレルギーと気づきにくいのが特徴です。遅延型食物アレルギーにはカンジダ感染も密接に関与します。部屋のカビ暴露とカンジダ感染が揃うと、遅延型の食物アレルギーがほとんどのケースに発症します。
さらに、腸内環境が乱れ、脳内の大脳辺縁系の炎症が持続し、喉や気管支の粘膜構造も脆弱になると、MCAS(マスト細胞活性化症候群)を発症しやすくなります。ヒスタミンの多い食品で頭痛や動悸、かゆみが悪化することがあります。しかし、実は元凶が部屋のカビだった、(ヒスタミン食が悪の根源ではなかった)と判明することがしばしばあります。
まとめ
部屋のカビとカンジダ菌は別物ですが、ヒトの体の中では協力し合い、慢性感染をして、そのヒトの体力、免疫力を奪います。さまざまな病気のきっかけになり、病気重症化、長期化の手助けをします。部屋のカビ暴露やカンジダ感染が見つかった場合、部屋の対策、体内のカビ退治、カビ毒の排出、粘膜の炎症を元に戻し、リーキーガット、そしてリーキーブレインの修復を行い、合理的に解決しましょう。
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