ライム病とは
ライム病は現在世界中で最も多いダニ媒介性疾患(人獣共通感染症)のひとつです。ライム病は世界中で急増中の全身性の慢性病です。 ボレリア・バーグドルフェリ菌が代表的な原因菌です。
ほかにもダニが媒介する感染症は、新興回帰熱 (Borrelia miyamotoi)、バルトネラ病、バベシア病、エーリキアやヒトアナプラズマ症などがあります。
ライム病は多くの方にとってなじみのない病気ですが、最近ではジャスティン・ビーバーなどの著名人がライム病と告白したことがニュースになったのを記憶されているかもしれません。彼は慢性の倦怠感やうつ病 などの不調で闘病し、紆余曲折を経てようやくライム病と診断されたケースです。
米国の統計では、ライム病と診断がつくまで平均数カ所以上の医療機関を訪ね、多大な時間と労力とコストがかかったという報告があります。米国の医師の多くにライム病を的確に診断するスキルが備わっていません。その米国でさえ1年3万人のライム病患者の報告があり、潜在患者数はもっと多いと言われています。
一方日本ではライム病は稀な病気で家屋にはライム病の原因となるマダニはないと信じられているほど、ライム病の分野で諸外国に遅れをとっています。医者に聞いてもほとんどがライム病とは特定の地域の稀な風土病、程度の認識であろうと思います。
ヒトとモノが自由に移動する時代で、ダニに好都合な温暖化と災害が増え、ダニの生息地域が拡大するなか、日本も米国と同じくらいライム病が蔓延していてもおかしくありません。実際に当院における患者さんの感染率と症状を見ても、海外の状況に遜色なく、日本の国土にはライム病がないと言い切るのは間違っています。当院ではライム病、バルトネラ病、バベシア病、エーリキア病が多いです。ダニに刺されてまもなくライム病と診断されれば通常は1週間程度の抗生剤治療をします。しかし、初期対応が適切に行われない場合は、遷延し慢性のライム病に進行します。ボレリア菌が人のからだに入り、全身に広がります。
ライム病をはじめ、バルトネラ菌やバベシア菌がやっかいな特徴は2つあります。まず、自然治癒力しにくい感染症で、時間の経過とともに人間の組織のすきまや細胞内に入り込んで感染が続くということ、そして2つ目の特徴は、感染源がいつも炎症性物質を発生しつづけることです。
数年から数十年もの長期の感染期間中ライム病の菌が細胞内へ侵入し、体の組織も機能においても「炎症」の状態になっています。ライム病の菌やバベシア菌は、関節内やリンパ組織に入り込んだり、赤血球内に入ることもあれば、細胞内に侵入したり、 細胞膜にも感染します。
細胞内のもっとミクロの世界のミトコンドリアにも入り、ミトコンドリアの機能を邪魔することもあります。ミトコンドリア内で酸化ストレスを引き起こします。
遺伝子に慢性炎症として関与するので、遺伝子の発現を異常にすることもあります。各臓器、各機能、血流、細胞、分子レベルにおいて慢性炎症のきっかけになるといえます。発生源(火の元)を消さなければ、慢性炎症はずっとくすぶり続けます。
免疫の細胞の異常が起こり、 膠原病や自己免疫疾患が疑われ、リウマチやクローン病に発展したり、原因不明の症状がはっきりしないが、自己免疫疾患の抗体だけが軽度上昇する現象もあります。
また、慢性疲労症候群や線維筋痛症の診断を受けたり、認知障害や重症のアレルギー体質になっている方もいます。神経症状も特徴的で、うつ病、慢性頭痛、情緒不安、不眠も起こりやすいです。
ダニに刺されてからの初期対応が遅れる場合以外にも、免疫のバリア機能が弱かったり、基礎疾患がある方はライム病が慢性化する可能性があります。ボレリア菌が侵入する部位(口腔内、歯肉や皮膚など)、菌の種類(ボレリア菌は数百以上あります)、元々の基礎疾患や炎症反応を食い止める機能によって病気の進行や重症度に個人差がみられます。
また、近年の報告によると、ライム病の菌の運び屋はマダニだけではなく、他の生物*クモやのみ、しらみもあるようです。
*たとえば蚊、ぶゆ、アブ、ノミ、トコジラミ、ダニ、ハチ、ムカデ。
ライム病によくある症状や疾患です
以下の病態にかかっている、何が原因なのかがわからない、治療中だが不調が続いている、病状に波があるなど、あてはまるものはありますか。
- 自己免疫疾患(リウマチ、ループス、シェーグレン、甲状腺、クローン病、乾癬、多発性硬化症など)
- 倦怠感
- 慢性疲労症候群
- 線維筋痛症
- うつ症状・不眠・不安症・パニックなど神経症状
- SIBO (小腸細菌異常増殖症)・治療後再発、なかなか治らない。
- カンジダ感染(腸内・全身)・治療後再発、なかなか治らない。
- 関節痛(とくに膝や腰)
- 慢性皮膚炎
- 自閉症 ADHD
- ものわすれ・アルツハイマー病
- パーキンソン病
- 慢性の頭痛 アレルギー・過敏症(食品、化学物質、音、光、紫外線、電磁波など)
ライム病の症状をカテゴリー別にもう少しブレイクダウンします。
代表的な症状
発熱(しばしば不明熱の原因、微熱も含む)、頭痛、慢性疲労、線維筋痛症、特徴的な皮膚の発疹(遊走性皮膚紅斑)
脳・神経
記憶力低下、アルツハイマー病、パーキンソン病、慢性の頭痛、めまい、不眠、うつ症状、情緒不安、パニック、自閉症、 注意欠陥障害、ストレートネック、顔面神経麻痺、しびれ、うずき、髄膜炎、多発性硬化症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、 短期記憶障害、的確な言葉がすぐ見つからない
自律神経
循環器:起立性不整脈、 動悸、不整脈、息切れ、血圧異常、体温調節の異常、寝汗
免疫
自己免疫疾患、リウマチ、クローン病、甲状腺の病気(橋本病 など)、掌蹠膿疱症、多発性硬化症、免疫異常、アレルギ ー、化学物質過敏症、重金属毒性(水銀など)、リンパ節腫脹、混合感染(ボレリア菌以外の病原体の感染が同時に存 在)、風邪をひきやすい、慢性副鼻腔炎、ぜんそく、体表面のやけどのような痛み
胃腸
SIBO(小腸細菌異常増殖症)、SIFO(腸内真菌感染・腸内カ ンジダ感染)、リーキーガット、遅延型食事アレルギー、腹部膨満感、下痢、便秘、消化不良、逆流性食道炎、セリアック病、吸収不良症候群
ホルモン
副腎機能不全、副腎疲労、甲状腺機能障害、卵巣や精巣機能 (生殖に関する機能障害)、月経不順、PMS、下垂体機能不全、糖尿病
関節
関節痛(痛む関節が移動、変わることがある)、関節炎、関節のむくみ、顎関節症、全身の痛み(部位が移動したり痛みの強度が変わる一貫性がないもの)、筋肉痛、手根管症候群、骨盤の痛み
その他
眼の炎症(虹彩炎、視神経炎など)、副鼻腔炎、酸化ストレスに関する症状や疾患、黄疸、肝機能障害、血球異常(白血球減少、赤血球減少、血小板減少)、耳鳴り、聴覚過敏、光過敏(電磁波過敏症も含める)、リンパの腫れ(首まわり、ひざ、足首など)
多くのライム病の患者さんはダニに刺されたことや初期に発疹があったことを憶えていません。発疹、発熱、虫の刺し口が見つかる方がまれともいわれています。
ライム病を疑い診断にいたるには、症状、既往歴、全身各機能の状態、虫への暴露の可能性や住居環境を考慮し、PCR検査を施行します。慢性ライム病、およびバベシア病やエーリキア病などライム病の混合感染の場合はPCR検査が感度が100%に近く、信頼のおける検査法です。(当院では抗体検査を診断の決めてに利用していません。)
治療せずに放置すると、関節、心臓、神経系、免疫系に感染が広がり進行し、慢性の炎症性疾患、自己免疫疾患のきっかけとなります。最近はライム病自体が自己免疫疾患だと指摘する専門家もいます。
ライム病は、全身多岐にわたる症状を起こし、中には原因不明とされる治療困難な病気も含まれます。ライムは一見つかみどころのない全身慢性炎症疾患で、潜在的に大勢の現代人を悩ませているさまざまな病気の原因になっています。