
疲れやすい、やる気が出ない、集中できない。
肌や爪のトラブルが気になる、口内炎が繰り返す、最近なんとなく免疫が落ちた気がする。大病では無いけれども何となくの不調は放置しがちですが、ミネラルバランスがカギを握っていることがあります。ミネラルバランスの中でも、見落とされがちなのが亜鉛不足です。
亜鉛ってなに?なにがそんなに大事なのでしょう?
亜鉛は、体の中で300種類以上の酵素を助けて働いている大切なミネラルです。
免疫、味覚、肌、爪、骨、脳の働き、そして腸や肝臓の調子まで、実はあちこちで地味に重要な役割を果たしています。さらにはホルモン、心臓、血管、血圧に血糖調節と、生存に関わる機能にも関わっているのです。
今日はまず亜鉛不足で何が起こるのか見ていきましょう。
亜鉛不足で何が起こるか?
- 免疫低下
亜鉛の基本は自然免疫細胞のサポートです。病原体に対する体の最前線での防御反応を担います。亜鉛不足で免疫低下が起こるので、病原体から身を守れなくなります。
易感染性(さまざまな感染症にかかりやすい)。 風邪をひきやすい、風邪が治りにくい、コロナ後遺症。
ヘルペスにかかりやすい、食あたりなど。
アレルギー反応が起こりやすい。 MCAS、化学物質過敏症、電磁波過敏症、自己免疫異常 - 味覚・嗅覚の異常
味がわからない、食事がおいしくない
においが分かりにくい。 口の中が金属のような味がすることがある - 皮膚・髪・爪のトラブル
湿疹、肌荒れ、ニキビが治りにくい
乾燥肌・かゆみ
アトピー
乾癬
掌蹠膿疱症
抜け毛が増える、髪が細くなった。円形脱毛症 口角炎(口の端が切れて痛い)、口内炎、ヘルペス、舌炎
白斑
傷の治りが遅い。(創傷治癒が遅い)
褥瘡(じょくそう) (床ずれ)
爪に白い斑点ができる、爪が割れやすい、薄くなる、爪の縦線が増える、爪の成長が遅い - 精神・神経系の不調
脳が回らない、集中力が続かない、活字が頭に入ってこない(ブレインフォグ)
イラっとしやすい、気分が落ち込みやすい
記憶力の低下(忘れっぽい)、特に短期記憶。
うつ傾向 - 消化・腸の不調
亜鉛は腸の免疫防御を強める働きをしています。亜鉛は腸のバリアである、タイトジャンクションの作用にも関わっています。亜鉛が足りないとさまざまな胃腸の不具合が起こります。
亜鉛は小腸の絨毛ひだから体内へ吸収されます。亜鉛が少なくて腸の不具合が起こり、かたや腸の問題があるから一層亜鉛を吸収できなくなる、という負のループにはまりやすくなります。
たとえば、食欲がない、食事を美味しく感じなくなる。下痢や軟便が続く(腸の粘膜が弱る)。
胃もたれしやすい、お腹の膨満感などです、
炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎、クローン病は亜鉛不足と相関性があります。
炎症性腸疾患に亜鉛の経口薬を投与しても効果は見られなかったが、亜鉛を点滴投与した際は有意な改善が認められています。 - ホルモン・代謝
子どもの成長障害。
男性ホルモン(テストステロンの機能不全関連:心疾患、スタミナ、不妊(精子の質))
女性ホルモンのアンバランス(妊孕性、月経関連のトラブル)
糖尿病(亜鉛がインスリン分泌に影響を及ぼすため)
骨密度低下 - 貧血・栄養バランスの乱れ
貧血。鉄剤を飲んでも貧血が改善しにくい - 慢性炎症
AGES(advanced glycation end products)終末糖化産物*が増える。
AGEが増えると、体が酸化ストレスになり、慢性炎症と老化が進みます。
*AGES(advanced glycation end products)終末糖化産物
AGEs(糖化最終生成物)とは、体内で糖分がたんぱく質や脂質と結びつき、化学反応を起こしてできる物質です。この反応は「糖化」です。糖化反応のAGESが増えると老化を早めたり、病気のリスクを高めます。たとえば、AGEsは血管を傷つけて、動脈硬化を進行させたり、アルツハイマーのリスクを高めたり、皮膚構造を変えてしみ、しわを増やすことがあります。
AGEsは糖分過剰摂取、酸化ストレスや炎症でも生成されます。亜鉛不足も糖化を進める因子です。糖化反応は不可逆性です。AGEの例はオーブン焼きした鶏肉のパリパリで茶色く変色した皮の部分です。 - 心疾患
亜鉛は心疾患発症リスクが高まることが知られています。心筋梗塞や高血圧です。 - 腎臓
慢性腎不全(CKD)のリスクが高まります。 - 目
夜盲症や加齢黄斑変性症。夜盲症の改善にビタミンAがよく知られるところですが、ビタミンAと亜鉛の組み合わせが良いです。
では、なぜ亜鉛が不足するの?
亜鉛不足になりやすい理由、共通点を探ってみましょう。
- ストレスが多い人(ストレスで亜鉛を大量に消費するため)
- お酒をよく飲む人(アルコールで亜鉛の排出が増えるため)
- 特定の薬を服用している人
- 腸内環境のアンバランス・腸が弱い人(セリアック病・遅延性食事アレルギー・リーキーガット・過敏性腸症候群のせいで亜鉛を腸から吸収できないため)
- 高齢者(亜鉛の吸収率が低下する)
- 妊娠・授乳中の女性(胎児や母乳で亜鉛の需要が増えるため)
- 慢性の感染症
- 有害金属・水銀が体内に多い人
リスク因子をいくつか抱えていませんか。リーキーガットがあって、飲酒の習慣とストレス過多、胃薬を常用しているなど、ありそうな組み合わせです。それぞれもう少し深掘りしてみましょう。
特定の薬?
亜鉛不足を起こしやすくする特定の薬とはなんでしょう。
主に胃薬、なかでも胃酸を抑える制酸剤です。たとえば以下のような胃薬はいつの時代もドラッグストアで見かける身近な薬です。
スクラート
ガスター
パンシロンキュア
ファモチジン
酸化マグネシウム(便秘薬)
制酸剤は胃酸の分泌を抑える薬です。胃潰瘍の治療や、逆流性食道炎に伴う痛みや胸やけなどを和らげる目的で使います。
ところが、胃酸は亜鉛を“ミセル化”という吸収しやすい形に変える作用があります。ですから、胃酸が少ないと亜鉛不足になってしまいます。処方薬だとタケプロン、タケキャブ、ネキシウムなど、ガスターよりさらに胃酸分泌を抑える作用が強いものがあります。
処方箋の中で亜鉛不足を起こす薬としては、降圧剤のカルシウム拮抗剤であるアムロジピンがあります。
酸化マグネシウムは妊婦さんにも処方される比較的安全とされる薬ですが、亜鉛に影響を及ぼします。処方薬の酸化マグネシウムはマグミットとして普及しています。
腸内環境のアンバランス・腸が弱い人
腸内フローラが乱れると、消化・吸収機能も低下します。
小腸でのガス、SIBOやSIFOがある時、リーキーガットで小腸の粘膜の構造が壊れている時、膨満感その他の炎症性の腸の病気があると、ミネラル吸収障害が起こります。亜鉛は小腸の壁のひだの部分から体内に吸収されるので、小腸の健康は亜鉛の運命を決めているのです。
低FODMAP食実践中の方は、SIBOの症状緩和のためでしょう。低FODMAPは食物繊維や発酵食品を避けるので、亜鉛不足を助長することがあります。低FODMAPを卒業できるように早くSIBOの根本解決をするか、または、亜鉛不足の確認を定期的に行うといいでしょう。
消化不良と亜鉛不足に相関性があります。遅延型フードアレルギーの食材、時短、早食い、噛まない食べ方も要注意です。
亜鉛吸収阻害要因
加齢は粘膜萎縮や消化力低下が起こるので、亜鉛不足になりやすくなります。しかし加齢以外に亜鉛の吸収に影響を及ぼす要因、「拮抗」があります。
亜鉛と拮抗関係にある物質は、ミネラルや化学物質、栄養素など多岐にわたります。拮抗とは、一方の物質が過剰になると、もう一方の吸収や代謝が抑制される関係です。以下に、亜鉛と特に重要な拮抗物質をまとめます。
- ミネラル
鉄やカルシウムは女性に人気の高いサプリです。亜鉛に興味はないけど、鉄やカルシウムはしっかり飲んでいる方は多いです。漫然と人気のサプリを飲んでいる方が亜鉛不足に陥っているかもしれません。- 鉄と亜鉛は腸内で同じ DMT1トランスポーター を介して吸収されるので、過剰な鉄は亜鉛の吸収を抑制します。
- 鉄のサプリメントを大量摂取すると亜鉛吸収を阻害します。鉄のサプリを飲んでもなかなか貧血が改善しない時、亜鉛不足が隠れていることがあります。
- 高カルシウム食(乳製品など)は、亜鉛吸収を阻害することがあります。
- 通常の食事レベルでは大きな影響は少ないですが、亜鉛もカルシウムも小腸から吸収されます。大量のカルシウムサプリを摂取すると亜鉛不足の傾向になります。
- 重金属
カドミウム、鉛、水銀などの有害金属が体内に過剰に蓄積していると、亜鉛不足になりやすくなります。亜鉛は体内でメタロチオネインというタンパク質と結合しています。有害金属が多い方とメタロチオネインは亜鉛の代わりに金属を捕まえます。その分、亜鉛はメタロチオネインから放たれ収まる場所がなくなるせいで、亜鉛不足になります。- カドミウムは、特に喫煙者は注意が必要です。
- カドミウムは腎臓や肝臓に蓄積し、亜鉛の代謝を妨げます。
- 鉛も亜鉛と競合し、亜鉛の吸収を低下させます。
- 小児の鉛中毒 では、亜鉛の補充が治療の一環として利用されます
- 水銀暴露の多い、特定の職業や環境(歯科、鉱山・精錬所、化学工場、ガラス工場、革加工業、工芸家、画家など)
- 歯の詰め物、アマルガムという銀歯がある人、過去に使用していた場合も。
亜鉛は健康に必要な他のミネラルとのバランスも考慮しながら摂取する必要があります。また、有害金属からの影響にも配慮が必要です。水銀、鉛、カドミウムは暴露し続けると亜鉛不足を助長します。
最後に
亜鉛は身体の300種以上もの多くの酵素の構成要素として、遺伝子調節、抗酸化作用、免疫機能などに重要な役割を果たします。さまざまな臓器や組織に影響を及ぼします。
医療の現場では日々さまざまな悩みの患者さんに出会います。よくよく調べてみると亜鉛不足が見つかることが少なくありません。実際亜鉛不足を解消すると不調を和らげる突破口になることがあります。
心臓、腎臓、膵臓、免疫細胞、骨、目、皮膚、髪の毛、爪、そしてホルモンにまで密に関わるなんて、ミネラル界の絶対王者ではないですか。とはいえ、亜鉛サプリを摂取さえすれば健康になるかというとそうとも限りません。亜鉛を多く含む食材、牡蠣、カボチャの種や赤い肉を食べたとてたちまち亜鉛補充完了ともならないのです。
亜鉛に影響を与える因子に目を向け、どのような戦略で亜鉛不足を治すか計画を立て、亜鉛をきっかけに健康を目指す糧にしましょう。
参考文献
Hyun WJ, et al. “Effect of acid-suppressing drugs on the absorption of dietary zinc.” Biol Trace Elem Res. 2015;167(1):41–47
制酸剤使用者において亜鉛が有意に低下すると指摘している論文。
亜鉛は食事中ではタンパク質やフィチン酸と結合した不溶性の形態で存在しており、吸収されるためには胃酸によって可溶化(ミセル化)される必要があります。制酸剤(PPI, H2ブロッカーなど)は胃内pHが高くなるので、これらの金属ミネラルのイオン化を妨げ、亜鉛が小腸で吸収されにくくなります。
長期の制酸剤使用で腸内細菌叢の変化が起こり、腸管バリア機能を破壊する可能性にも言及しています。リーキーガット、そして、慢性炎症を介して亜鉛喪失や吸収障害を増悪させます。
Maret W. “Zinc in cellular regulation: the nature and significance of “zinc signals”.” Int J Mol Sci. 2017;18(11):2285.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29088067/
血液中の亜鉛の約60~70%はアルブミンと結合して存在しており、残りはα2-マクログロブリン(20~30%)やアミノ酸と結合しています。血清アルブミンが低いと、亜鉛不足に陥るということです。高齢者が亜鉛不足になりやすいメカニズムの説明になっています。
https://www.mdpi.com/1660-4601/7/4/1342
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新聞記事 亜鉛過剰の弊害
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27151944/
亜鉛は腸のタイトジャンクションの調節作用があります。亜鉛は消化管での免疫防御に必須の微量栄養素、つまりリーキーガットを治すときには亜鉛を重視すべき、とわかります。
Kim JW, Byun MS, Yi D, Lee JH, Kim MJ, Jung G, Lee JY, Kang KM, Sohn CH, Lee YS, Kim YK, Lee DY; KBASE Research Group. Serum zinc levels and in vivo beta-amyloid deposition in the human brain. Alzheimers Res Ther. 2021 Nov 19;13(1):190. doi: 10.1186/s13195-021-00931-3. PMID: 34798903; PMCID: PMC8605596.
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亜鉛とアルツハイマー病発症リスクの相関関係。亜鉛不足はアミロイドベータ蛋白凝集しやすくなると示唆します。
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Webster KE, O’Byrne L, MacKeith S, Philpott C, Hopkins C, Burton MJ. Interventions for the prevention of persistent post-COVID-19 olfactory dysfunction. Cochrane Database Syst Rev. 2022 Sep 5;9(9):CD013877.
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亜鉛の重要性と作用を端的にまとめた文献。メタロチオネインは亜鉛の貯蔵と放出を調節して、亜鉛の必要量を細胞内で適切に維持します。亜鉛と重金属はメタロチオネインを介して競合します。重金属は亜鉛の機能を低下させます。亜鉛は重金属の有害作用を軽減し、有害金属の酸化ストレスを軽減します。